・・・ その愈々婚礼の晩という日の午後三時頃でもあろうか。村の小川、海に流れ出る最近の川柳繁れる小陰に釣を垂る二人の人がある。その一人は富岡先生、その一人は村の校長細川繁、これも富岡先生の塾に通うたことのある、二十七歳の成年男子である。 ・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 王さまはすぐに王女と御婚礼をしようとなさいました。ところが王女は、自分のお城を王さまの御殿のそばへ持って来てもらわなければいやだと言い張りました。王さまはウイリイをお呼びになって、「お前はなぜ、ついでにお城を持ってかえらなかったの・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・ すると、或とき、知合の家に御婚礼があって、ギンも夫婦でよばれていきました。二人はじぶんたちの馬が草を食べている野原をとおっていきました。そうすると女は、途中で、あんまり遠いから、私はよして家へかえりたいと言いました。ギンは、「だっ・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・ 御殿では王子と王女との御婚礼の式をあげることになりました。 それで、王女のお父さまの王さまにも来ていただかないといけないというので、王子はいそいで長々をおつかいに出しました。長々は例の足でひょい/\/\と、一どに一里ずつまたいで、・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・わたしパリイにいた時、婚礼をした連中が料理店に這入っていたのを見たことがあるのよ。お嫁さんは腰を掛けて滑稽雑誌を見ている。お婿さんと立会人とで球を突いているというわけさ。婚礼の晩がこんな風では、行末どうなるだろうと思ったの。よくまあ、お婿さ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・しかしてその棺の中には、頭に婚礼のかんむりを着けたわかいむすめがねかしてありました。 その室のかべというのは新しい荒けずりの松板でヴァニスをかけただけですから、節がよく見えていました。黒ずんだ枝の切り去られたなごりのたまご形の節の数々は・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・彼女の男性嘲笑は、その結婚に依り、完膚無きまでに返報せられた。婚礼の祝宴の夜、アグリパイナは、その新郎の荒飲の果の思いつきに依り、新郎手飼の数匹の老猿をけしかけられ、饗筵につらなれる好色の酔客たちを狂喜させた。新郎の名は、ブラゼンバート。も・・・ 太宰治 「古典風」
・・・私は無一文で婚礼の式を挙げたのである。甲府市のまちはずれに、二部屋だけの小さい家を借りて、私たちは住んだ。その家の家賃は、一箇月六円五十銭であった。私は創作集を、つづけて二冊出版した。わずかに余裕が出来た。私は気がかりの借銭を少しずつ整理し・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・ それから数日後、お城では豪華な婚礼の式が挙げられました。その夜の花嫁は、翼を失った天使のように可憐に震えて居りました。王子には、この育ちの違った野性の薔薇が、ただもう珍らしく、ひとつき、ふたつき暮してみると、いよいよラプンツェルの突飛・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ メッサーの手下が婚礼式場用の椅子や時計を盗みだすところはわりによくできている。くどく、あくどくならないところがうまいのであろう。倉庫の暗やみでのねずみのクローズアップや天井から下がった繩にうっかり首を引っかけて驚いたりするのも、わざと・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫