・・・という華やかな雰囲気の冒頭によって始められたこの貴族の子息の幼年時代の追想は筆者トルストイの卓抜鮮明なリアリスティックな描写によって、何という別世界の日常を読者の前に展開させつつ、ゴーリキイの「幼年時代」に描かれている民衆の現実と対立してい・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
けさ、新聞をひろげたら、『衆院傍聴席にも首相の「若き顔」』として、米内首相の子息の学生服姿が出ている。本当にこの息子さんの面ざしはお父さんの俤を湛えているけれども、この若人も、きのうはやっぱり地下室に蜒々と連らなった人の列・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・だから忠利の心では、この人々を子息光尚の保護のために残しておきたいことは山々であった。またこの人々を自分と一しょに死なせるのが残刻だとは十分感じていた。しかし彼ら一人一人に「許す」という一言を、身を割くように思いながら与えたのは、勢いやむこ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・宣教師に対して、禁教緩和の望みがあるような印象を与えたのは、彼とその子息の上野守なのである。一向宗の狂信が依然として続いていたとすれば、おそらくこういう態度を取ることはできなかったであろう。したがって帰参のころには一向宗の熱は醒めていたと推・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫