・・・鯛の頭に孔雀の尻尾。動物園には象が居るよ。植物園は涼しいね。マルクスが何と云っても絵画は絵画で科学は科学です。ヴォアラ、ネスパ、セッサ、ムシュー、アラマディ、プレンプアン、ラタヽパン。 同じ人間が同じ会の展覧会批評を毎年つづけて・・・ 寺田寅彦 「二科狂想行進曲」
・・・手もなく孔雀の羽根を身に着けて威張っているようなものですから。それでもう少し浮華を去って摯実につかなければ、自分の腹の中はいつまで経ったって安心はできないという事に気がつき出したのです。 たとえば西洋人がこれは立派な詩だとか、口調が大変・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・方角や歩数等から考えると、私が、汚れた孔雀のような恰好で散歩していた、先刻の海岸通りの裏辺りに当るように思えた。 私たちの入った門は半分丈けは錆びついてしまって、半分だけが、丁度一人だけ通れるように開いていた。門を入るとすぐそこには塵埃・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・「ごらん、蒼孔雀を。」さっきの右はじの子供が私と行きすぎるときしずかに斯う云いました。まことに空のインドラの網のむこう、数しらず鳴りわたる天鼓のかなたに空一ぱいの不思議な大きな蒼い孔雀が宝石製の尾ばねをひろげかすかにクウクウ鳴きました。・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・そらには霜の織物のような又白い孔雀のはねのような雲がうすくかかってその下を鳶が黄金いろに光ってゆるく環をかいて飛びました。 みんなは、「とんびとんび、とっとび。」とかわるがわるそっちへ叫びながら丘をのぼりました。そしていつもの栗の木・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・「あ孔雀が居るよ。」「ええたくさん居たわ。」女の子がこたえました。 ジョバンニはその小さく小さくなっていまはもう一つの緑いろの貝ぼたんのように見える森の上にさっさっと青じろく時々光ってその孔雀がはねをひろげたりとじたりする光の反・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・精女 そんなにおっしゃらないで下さいませ、そんなにおっしゃられるほどのものじゃあございませんですから――ペーン まっしろな銀で作った白孔雀の様な――夜光球や蛋白石でかざった置物の様な――私はそう思って居るのだよ。 お前の御主のダ・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・ノッティンガムの礦夫の息子として生れ、教育のあった母のおかげと、自分の努力で大学に学ぶことのできたD・H・ローレンスは、「白孔雀」を処女作として、彼独特の文学の道に立った。彼は、礦区の人々の人生をものがたる作家とはならなかった。「白孔雀」は・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ 森の木の枝に自慢の角を引っかけて玉にうたれた鹿だの、孔雀の羽根で恥をかいた可哀そうな鳥だの、片目をたのみすぎた罪のない驢馬だのねえ。B まあそんなに? 私にはそんな事考えられないわ。A そんな旅はいつまで続くの。 来年・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・なげやりに 氷をかめば悲の湧く角砂糖のくずるゝ音をそときけば 若き心はうす笑する首人形遠き京なるおもちや屋の 店より我にとつぎ出しかなはにかみてうす笑する我よめは 孔雀の羽かげ髷のみを出す物語り思ひ出・・・ 宮本百合子 「短歌習作」
出典:青空文庫