・・・れた時期、いわゆる純文学はどういう過程を経たかと云えば、周知のとおり、人間本来のこころを映す文学は抹殺され、条理の立った批判は封ぜられ、遂に文化という人間だけがもっている精神活動の成果をあらわす高貴な字句さえ禁ぜられて綜合雑誌の或るものはつ・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ R氏の家は、丁度市街に沿うてある細長いモーニングサイド公園に近いので、夕食後三十分か一時間も緩くりと散歩し、胃も頭も爽かになった時分に帰って、読書と、昼間書いた草稿を夫人に読んで聞かせ、忠言を得て字句の改正をする。夫人は、同じ灯の下で、・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・当り前の分担事務の外に、字句の訂正を要するために、余所の局からも、木村の処へ来る書類がある。そんなのも急ぎでないのはこの中に這入っている。 書類を持ち出して置いて、椅子に掛けて、木村は例の車掌の時計を出して見た。まだ八時までに十分ある。・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫