・・・女の子は桃子が可愛い名だけれども、字面が悪いので二の足をふんでいます。そうしてみると私の名はいい名ね。 冨山房の本は、随分さがしているけれどもまだみつかりません。外交史の下巻はどうしたかしら? 聞いてみましょう。訳は一刻を争うから雑なも・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・その人をして小説をかかしめている精神のコムプレックスの必然の感銘がなく、小説が字面で書かれているということである。一定の人生を見てかきながら、それにふさわしい人生の見かたがないという意味を云っている青野氏の言葉は、この一二年間所謂素人文学と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・しかし語られている現実について見ると、ソヴェトの文化の質的向上は、一見批評性の否定を意味するかのようなその小見出しの字面とは反対に、或る社会では、健全な社会性というものと文学作品に対する批評性とが一致して発露し得るという明るい現実の可能を示・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・何百億という狂気めいた予算が丸のみされて、戦争は進められたのだが、その数億にしろ、現実には一銭なしにはじまらないのである。字面を万単位にしたいかめしい政府の計算にしろ一円は百銭である、という子供が先ず覚えはじめる勘定の基礎に与えられているの・・・ 宮本百合子 「郵便切手」
出典:青空文庫