・・・「また、今時に珍しい、学校でも、倫理、道徳、修身の方を御研究もなされば、お教えもなさいます、学士は至っての御孝心。かねて評判な方で、嫁御をいたわる傍の目には、ちと弱すぎると思うほどなのでございますから、困じ果てて、何とも申しわけも面目も・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ 翌日、真吉は、東京へ着くと、すぐにお店に帰って、昨日からのことを正直に主人に話しますと、主人は、真吉の孝心の深いのに感歎しましたが、感情に委せて、考えなしのことをしてはならぬと、この後のことを戒めました。 真吉は、大きくなってから・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
・・・日蓮はいたって孝心深かった。それは後に身延隠棲のところでも書くが、その至情はそくそくとしてわれわれを感動させるものがある。今も安房誕生寺には日蓮自刻の父母の木像がある。追福のために刻んだのだ。うつそみの親のみすがた木につくりただに額・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・いたって孝心深かった日蓮も法のため母を捨てねばならなかった。己が捨てし母の御姿木に造り千度額ずり哭き給ひけむ これはこの木像を見て私の作った歌である。 ある人を愛して結ばれやがてやむなく別離したとき「今度はまたよりよき人・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・然り而してその家の私徳なるものは、親子・兄弟姉妹、団欒として相親しみ、父母は慈愛厚くして子は孝心深く、兄弟姉妹相助けて以て父母の心身の労を軽くする等の箇条にして、能くこの私徳を発達せしむるその原因は、家族の起源たる夫婦の間に薫ずる親愛恭敬の・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫