・・・ドル臭しとは黄金の力何事をもなし得るものぞと堅く信じ、みやびたる心は少しもなくて、学者、宗教家、文学者、政治家の類を一笑し倒さんと意気込む人の息気をいう、ドルの文字はまたアメリカ帰りの紳士ちょう意をも含めり。詳しき説明は宇都宮時雄の君に請い・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・しかし初学者が倫理学研究の入門として、上述の倫理的問いをもって発足するには、やはりテオドル・リップスの『倫理学の根本問題』などが最もいいであろう。もっともこれはコーヘンとともに新カント派のいわゆる形式主義の倫理学であって、流行の「実質的価値・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 曹長は、刑法学者では誰れが権威があるとか、そういう文官試験に関係した話を途中でよして、便所へ行くものゝのように扉の外へ出た。 彼は、老人の息がかゝらないように、出来るだけ腰掛の端の方へ坐り直した。彼は、癇高い語をつゞけている通訳と・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・で、豚だの牛だのは骨董を捻くった例を見せていない。骨董を捻くり出すのは趣味性が長じて来たのである。それからまた骨董は証拠物件である。で、学者も学問の種類によっては、学問が深くなれば是非骨董の世界に頭を突込み手を突込むようになる。イヤでも黴臭・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・刑死の人には、実に盗賊あり、殺人あり、放火あり、乱臣・賊子あると同時に、賢哲あり、忠臣あり、学者あり、詩人あり、愛国者・改革者もあるのである。これは、ただ目下のわたくしが、心にうかびでるままに、その二、三をあげたのである。もしわたくしの手も・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・高瀬から見れば親と子ほども年の違った学者だ。「高瀬さんは三年という御約束で、私共の塾へ来て下さいました」 先生は今度雇い入れた新教員のことを学士に話した。 初めての授業を終って、復た高瀬がこの二階へ引返して来る頃は、丁度二番の下・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ ディオニシアスは、こんな乱暴な人でしたけれど、それと一しょに、一方には大層学問があり、色々の学者や詩人たちを、いつも側に集めていました。そして自分でもどんどん詩を作りました。 或ときディオニシアスは、フィロセヌスという学者が、自分・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
・・・末弟は、ぶうっとふくれて、「僕は、そのおじいさんは、きっと大数学者じゃないか、と思うのです。きっと、そうだ。偉い数学者なんだ。もちろん博士さ。世界的なんだ。いまは、数学が急激に、どんどん変っているときなんだ。過渡期が、はじまっている。世・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・これについては世界中の信用のある学者の最大多数が裏書をしている。仕事が科学上の事であるだけにその成果は極めて鮮明であり、従ってそれを仕遂げた人の科学者としてのえらさもまたそれだけはっきりしている。 レニンの仕事は科学でないだけに、その人・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・巴里屋根裏の学者の英訳本などである。中村敬宇先生が漢文に訳せられた『西国立志編』の原書もたしか読んだように思っている。 中学を出て、高等学校の入学試験を受ける準備にと、わたくしたちは神田錦町の英語学校へ通った時、始めてヂッケンスの小説を・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
出典:青空文庫