・・・ 下人は、守宮のように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平にしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗いて見た。 見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾・・・ 芥川竜之介 「羅生門」
・・・――舌も引かぬに、天井から、青い光がさし、その百姓屋の壁を抜いて、散りかかる柳の刃がキラリと座のものの目に輝いた時、色男の顔から血しぶきが立って、そぎ落された低い鼻が、守宮のように、畳でピチピチと刎ねた事さえある。 いま現に、町や村で、・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・これはね大工が家を造る時に、誤って守宮の胴の中へ打込んだものじゃ、それから難破した船の古釘、ここにあるのは女の抜髪、蜥蜴の尾の切れた、ぴちぴち動いてるのを見なくちゃ可と差附けられました時は、ものも言われません。どうして私が知っておりまし・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
出典:青空文庫