・・・ 神将 我々は天が下の陰陽師、安倍の晴明の加持により、小町を守護する三十番神じゃ。 使 三十番神! あなたがたはあの嘘つきを、――あの男たらしを守護するのですか? 神将 黙れ! か弱い女をいじめるばかりか、悪名を着せるとは怪しか・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・瀬古 最後の一片はもちろん僕たちの守護女神ともちゃんに献げるのさ。僕はなんという幻滅の悲哀を味わわねばならないんだ。このチョコレットの代わりにガランスが出てきてみろ、君たちはこれほど眼の色を変えて熱狂しはしなかろう。ミューズの女神も一・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・「ヒ、ヒ、ヒ、空ざまに、波の上の女郎花、桔梗の帯を見ますと、や、背負守の扉を透いて、道中、道すがら参詣した、中山の法華経寺か、かねて御守護の雑司ヶ谷か、真紅な柘榴が輝いて燃えて、鬼子母神の御影が見えたでしゅで、蛸遁げで、岩を吸い、吸い、・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・が分って、お心遣いの時間が五分たりとも少なかった、のみならず、お身体の一箇処にも紅い点も着かなかった事を、――実際、錠をおろした途端には、髪一条の根にも血をお出しなすったろうと思いました――この祝言を守護する、黄道吉日の手に感謝します。・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・餌食がその柔かな白々とした手足を解いて、木の根の塗膳、錦手の木の葉の小皿盛となるまでは、精々、咲いた花の首尾を守護して、夢中に躍跳ねるまで、楽ませておかねばならん。網で捕ったと、釣ったとでは、鯛の味が違うと言わぬか。あれ等を苦ませてはならぬ・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・―― 一度横目を流したが、その時は、投げた単衣の後褄を、かなぐり取った花野の帯の輪で守護して、その秋草の、幻に夕映ゆる、蹴出しの色の片膝を立て、それによりかかるように脛をあらわに、おくれ毛を撫でつけるのに、指のさきをなめるのを、ふと見ま・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ 誰のお庇だ、これも兄者人の御守護のせい何ぞ恩返しを、と神様あつかい、伏拝みましてね、」 と婆さんは掌を合せて見せ、「一年、やっぱりその五月雨の晩に破風から鼻を出した処で、(何ぞお望と申上げますと、とそういったそうでございます。・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・りの帷子で、眼鏡の下に内職らしい網をすいている半白の父を呼ぶと、急いで眼鏡を外して、コツンと水牛の柄を畳んで、台に乗せて、それから向直って、丁寧に辞儀をして、「ええ、浦安様は、浦安かれとの、その御守護じゃそうにござりまして。水をばお司り・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・また、「後の五百歳濁悪世の中に於て、是の経典を受持することあらば、我当に守護して、その衰患を除き、安穏なることを得しめん」とも録されてある。 今の時代は末法濁悪の時代であり、この時代と世相とはまさに、法華経宣布のしゅん刻限に当っているも・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ ところが政元は病気を時したので、この前の病気の時、政元一家の内うちうちの人だけで相談して、阿波の守護細川慈雲院の孫、細川讃岐守之勝の子息が器量骨柄も宜しいというので、摂州の守護代薬師寺与一を使者にして養子にする契約をしたのであった。・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫