出典:青空文庫
・・・科学と哲学と宗教とはこれを研究し闡明し、そして安心立命の地をその上に置こうと悶いている、僕も大哲学者になりたい、ダルウィン跣足というほどの大科学者になりたい。もしくは大宗教家になりたい。しかし僕の願というのはこれでもない。もし僕の願が叶わな・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 信仰の中心はそういう様式上の問題などにあるのではなく、安心立命の問題にあるのだ。自分のうけているこの一個のいのちがこの宇宙とひとつに帰して、もはや生きるもよし、死ぬるもよしという心境に落ち着くところにあるのだ。それは人間にとって、女に・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・と、安心立命の一境地に立って心中に叫んだ。 ○ 天皇は学校に臨幸あらせられた。予定のごとく若崎の芸術をご覧あった。最後に至って若崎の鵞鳥は桶の水の中から現われた。残念にも雄の鵞鳥の頸は熔金のまわりが悪くて断れていた。・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・が、いやいや、レニン先生を、と言いたいところでもあろうが、この作者、元来、言行一致ということに奇妙なほどこだわっている男で、いやいや、そう言ってもいけない、この作者、元来、非惨を愛する趣味家であって、安心立命の境地を目して、すべて崩壊の前提・・・ 太宰治 「創作余談」
・・・の類であろうが、またこれに対する著者の評は、金のたまらぬ人間の安心立命の考え方を示すものである。 酒飲む人のだらしのなさを描いた第百七十五段も面白い。六百年昔の酒飲みも今日の呑んだくれとよく似ている。それで絶対に禁酒を強調するかと思って・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・それよりも自分に注意を与えるその宗教家などの様子を見ると、かえって何だか不安心なような顔付が見えて居て、あべこべに此方から安心立命の法を教えてでもやりたいと思うのがある。これらは皆死を恐れて居るのである。しかしかくいえばとて自分は全く死を恐・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・では通念の代弁者である小役人庄兵衛に対して、全く個人の主観に立って安心立命をも得ており、弟殺しとして罪に問われたことも自分には十分わかっている真の動機からその心を腐らせるものとはなっていない不幸な喜助の個人の必然としての主観の世界を正面から・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・根本的には安心立命して居ります。それから私の体のことを、この間うちはとやかく御心配かけ、すみませんでした。目下好調子です。小説も、今回分は僅かでも大体の通ったプランを立てなければならず、そのために時間を多く費しましたが、やっとそれが終り、書・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・自分の道を見出す必要に迫られて来るのです。自分の安心立命の出来るものを発見しようとした時、初めて時代と自分というものの本当の交渉が理解されるようになり、或はまたその時代の標準、方法、理想に満足するかも知れません。然しそれは人によって違うこと・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・久内の安心立命、模索の態度を認め、更に「わが国の文物の発展が何といっても茶法に中心を置いて進展してきている以上は、精神の統一の仕方は利休に帰ってみることがまず何よりの近路に相違ない」「なるほど、茶法の極意を和敬清寂と利休のいったのに対して、・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」