・・・この目的が達せられうる程度によって学説の相対的価値が定まる。この目的がかなり立派に達せられて、しかも根本仮定が非常識だという場合に常識を捨てるか学説を捨てるかが問題である。現在あるところの物理学は後者を選んで進んで来た一つの系統である。・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・角の数が何で定まるか、これも未知の問題である。すすけた障子紙へ一滴の水をたらすとしみができるが、その輪郭は円にならなくて菊の花形になる。筒井俊正君の実験で液滴が板上に落ちて分裂する場合もこれに似ている事が知られた。葡萄酒がコップをはい上がる・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・能知者と所知者の結合を包括する全体が更に大きな普遍的で絶対的な能知を反映する事によって芸術たる価値が定まると考える事が出来るだろう。 以上のごとき単純な側面観によって科学と芸術との任務や領域を遺憾なく説明しようというのではない。こういう・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・すなわち現在の状況が主として現在だけで定まる場合であった。しかしゼンマイ秤の場合にはもう一つ面倒な歴史という事が現われて来るので、事柄は更に紛糾の度を加えて来る。仮りに目方の方が不変であるとしても、これを比較すべき弾条の弾性というものがなか・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・受けたようなこともなく、といって学校から帰ると、その日の学課の復習や、あすの下しらべなどを、キチンと時間を定めて、一定の範囲内に一定の勉強を続けたのでもなく、その日、その時において、一日の時間は自然に定まるという至極のんきな方法を執っていた・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・最後の審判は我々が最も奥深いものによって定まるのである。これを陛下に負わし奉るごときは、不忠不臣のはなはだしいものである。 諸君、幸徳君らは時の政府に謀叛人と見做されて殺された。諸君、謀叛を恐れてはならぬ。謀叛人を恐れてはならぬ。自ら謀・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・「明日と定まる仕合の催しに、後れて乗り込む我の、何の誰よと人に知らるるは興なし。新しきを嫌わず、古きを辞せず、人の見知らぬ盾あらば貸し玉え」 老人ははたと手を拍つ。「望める盾を貸し申そう。――長男チアーは去ぬる騎士の闘技に足を痛めて今な・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・生徒の点数は教師によって定まる。生徒の父兄朋友といえどもこの権利をいかんともする事はできん。学業の成蹟は一に教師の判断に任せて、不平をさしはさまざるのみならず、かえってこれによって彼らの優劣を定めんとしつつある。一般の世間が評家に望むところ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・存在の前に当為があるなどいって、いわゆる実践理性の立場から道徳の形式が明にせられたとしても、真の実践は単に形式的に定まるのではない。此にも内容なき形式は空虚である。人は真実在は不可知的というかも知らない。もし然らば、我々の生命も単に現象的、・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・政府の故意にして、ことさらに官途の人のみにこれをあたうるに非ず、官職の働はあたかも人物の高低をはかるの測量器なるがゆえに、ひとたび測量してこれを表するに位階勲章をもってして、その地位すでに定まるときは、本人の働は何様にてもこれに関することな・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
出典:青空文庫