・・・そこからこのXを定めるという方法だ」と云って聞かせた。この剽軽な、しかし要を得た説明は子供の頭に眠っている未知の代数学を呼び覚ますには充分であった。それから色々の代数の問題はひとりで楽に解けるようになった。始めて、幾何学のピタゴラスの定理に・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・さらにもっともっと複雑な例を取って、たとえば人がその愛する人の死に対していかに感じいかに反応しいかに行動するかという場合になると、もはや決定さるべき情緒や行為を数量的に定めることもできないのみならず、これに連関する決定因子やその条件のどれ一・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
明後日は自分の誕生日。久々で国にいるから祝の御萩を食いに帰れとの事であった。今日は天気もよし、二、三日前のようにいやな風もない。船も丁度あると来たので帰る事と定める。朝飯の時勘定をこしらえるようにと竹さんに云い付ける。こん・・・ 寺田寅彦 「高知がえり」
・・・而してその区々な表現の価値を定めるものも科学の場合とは無論一様でない。しかしともかくも芸術家のうちで自然そのものを直接に見て何物かを見出そうという人があれば、その根本の態度や採るべき方法には自ずから科学者と共通点を見出す事が出来てもよい訳で・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・に代って作品の価値を定めるものは何であろう。それは譬えて云わば、無限に向かって進んで行く光の「強度」のようなものではあるまいか。無限の空間に運動している物の「運動量」のようなものではあるまいか。 こういう立場から見た時にセザンヌやゴーホ・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ともかくも、この種の研究を充分に進めた上で、消防署の配置や消火栓の分布を定めるのでなければ決して合理的とは言えないであろうと思われる。 これらの研究は化学者物理学者気象学者工学者はもちろん心理学者社会学者等の精鋭を集めてはじめて可能とな・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・――ランスロットは漸くに心を定める。 部屋のあなたに輝くは物の具である。鎧の胴に立て懸けたるわが盾を軽々と片手に提げて、女の前に置きたるランスロットはいう。「嬉しき人の真心を兜にまくは騎士の誉れ。ありがたし」とかの袖を女より受取る。・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・批評の条項についても諸人の合意でこれらの高下を定める事ができるかも知れぬ。崇高感を第一位に置くもよい。純美感を第一にするもよい。あるいは人間の機微に触れた内部の消息を伝えた作品を第一位に据えてもいい。あるいは平々淡々のうちに人を引き着ける垢・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・が猜疑心はますます深くなり、余が継子根性は日に日に増長し、ついには明け放しの門戸を閉鎖して我黄色な顔をいよいよ黄色にするのやむをえざるに至れり、彼二婆さんは余が黄色の深浅を測って彼ら一日のプログラムを定める、余は実に彼らにとって黄色な活動晴・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・余はやむを得ないから四ツ角へ出るたびに地図を披いて通行人に押し返されながら足の向く方角を定める。地図で知れぬ時は人に聞く、人に聞いて知れぬ時は巡査を探す、巡査でゆかぬ時はまたほかの人に尋ねる、何人でも合点の行く人に出逢うまでは捕えては聞き呼・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
出典:青空文庫