・・・に習熟した人にとっては、一枚の図葉は実にありとあらゆる有用な知識の宝庫であり、もっとも忠実な助言者であり相談相手である。 今、かりに地形図の中の任意の一寸角をとって、その中に盛り込まれただけのあらゆる知識をわれらの「日本語」に翻訳しなけ・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・映画はある意味で具象そのものであって、その中には発見されうべき真なるものの無限の宝庫が隠れているからである。こういう点では新聞の社会記事というものは言わば宝の山の地図、しかも間違いだらけの粗末な地図以上の価値はないと言ってもよい。 ニュ・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ この航海のおもなる使命は純学術的よりはむしろより多く経済的なものであって、それも単にロシアの氷海を太平洋に連絡させるというのみでなく、莫大な富源の宝庫ヤクーツクの関門と見るべきレナ河口と、ドヴィナ湾との間に安全な定期航路を設定しようと・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・ 響灘は玄海灘とつづいているが、白島付近は魚と貝類の宝庫だ。そこへ二、三年前、一月の寒い風に吹かれながら、ソコブク釣りに出かけた。河豚のおいしいのは十二月から一月までである。十月ごろから食べはじめ、三月のいわゆる菜種河豚でおしまいにする・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・五ヵ年計画によってウラル地方にも大きい炭坑区が出来たが、それまではドン・バス炭坑はソヴェト同盟最大の石炭宝庫であった。ソヴェト同盟では、諸君も知っているとおり、世界の労働者農民の見学団を心から歓迎している。石炭の町ゴルロフカにも、ドイツ、ア・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・現実の辛酸が我々を打ちのめしもするが又賢くもする通り、歴史の緊迫した瞬間、文学は一見迂遠に見えるが実は、ある時間が経つと最も豊富な形でその諸経験を広くは人類的な意味で各民族の文化の宝庫の中へたくわえるものである。 今日、そして明日の新し・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・ 国民文学が単一に民族伝説だけを自身の内容とするのでないことは明らかなわけだから、生活が年々に経てゆく現実の諸相から諸種の文学が生み出されて、そのものの文学としての真実で、国民の所有する文学の宝庫をゆたかにして行って自然だろうと思える。・・・ 宮本百合子 「文学は常に具体的」
・・・麦の宝庫であるウクライナは、一九一七年から二一年頃までの間もロシアに侵入した反革命軍が食糧庫としようとした。住民たちは、侵略の恐ろしい暴力とたたかったのであったが、このたびの第二次世界戦争においても、豊かに波だつ麦畑と、それを粉に挽く風車の・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・ それにつけて思い合わされるのは欧州文学の宝庫の中には、何と教育というものへの批判と抗議の文学が数多く在るだろうというおどろきである。 たとえば、ドイツの近代文学を眺めれば、理解されない子供の悲劇を主題とした作品は二十世紀の初めごろ・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫