・・・それからその長靴の代りには、この宝石のはいった靴をやろう。この黄金細工の剣をやれば、その剣をくれても損はあるまい。どうだ、この値段では?第二の盗人 わたしはこのマントルの代りに、そのマントルを頂きましょう。第一の盗人と第三の盗人 わ・・・ 芥川竜之介 「三つの宝」
・・・ 手を当てると冷かった、光が隠れて、掌に包まれたのは襟飾の小さな宝石、時に別に手首を伝い、雪のカウスに、ちらちらと樹の間から射す月の影、露の溢れたかと輝いたのは、蓋し手釦の玉である。不思議と左を見詰めると、この飾もまた、光を放って、腕を・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・葛上亭長、芫青、地胆、三種合わせた、猛毒、膚に粟すべき斑はんみょうの中の、最も普通な、みちおしえ、魔の憑いた宝石のように、ぎらぎらと招いていた。「――こっちを襲って来るのではない。そこは自然の配剤だね。人が進めば、ひょいと五六尺退って、・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・人形使 (丈高く、赤き面夫人 私は何にも世の中に願はなし、何の望みも叶わなかったから、お前さんの望を叶えて上げよう。宝石も沢山ある。お金も持っています――失礼だけれど、お前さんの望むこと一つだけなら、きっと叶えて上げようと思うんだよ・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・ 僕が昼飯を喰っている時、吉弥は僕のところへやって来て、飯の給仕をしてくれながら太い指にきらめいている宝石入りの指輪を嬉しそうにいじくっていた。「どうしたんだ?」僕はいぶかった。「人質に取ってやったの」「おッ母さんの手紙がば・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・金銀の時計や、指輪や、赤・青・紫、いろいろの色の宝石が星のように輝いていました。また一つの窓からは、うすい桃色の光線がもれて、路に落ちて敷石の上を彩っていました。よい音色は、この家の中から聞こえてきたのであります。 さよ子は、家の中がに・・・ 小川未明 「青い時計台」
・・・そのうちに、皇子のほうからは、たびたび催促があって、そのうえに、たくさんの金銀・宝石の類を車に積んで、お姫さまに贈られました。また、お姫さまは、二ひきの黒い、みごとな黒馬を皇子に貢ぎ物とせられたのです。 いよいよ、赤い姫君と黒い皇子とが・・・ 小川未明 「赤い姫と黒い皇子」
・・・よく見ると、それは、みんな星ではなく、金貨に、銀貨に、宝石や、宝物の中に自分はすわっているのである。もう、こんなうれしいことはない。 彼は、りっぱな家を持って、その家の主人となっていました。 あくる日、木の枝でからすがなきました。ち・・・ 小川未明 「北の国のはなし」
・・・考えて見れば黄金や宝石だって人生に取って真価値があるのではない、やはり一種の手形じゃまでなのであろう。徹底して観ずれば骨董も黄金も宝石も兌換券も不換紙幣も似たり寄ったりで、承知されて通用すれば樹の葉が小判でも不思議はないのだ。骨董の佳い物お・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・香、扇子、筆墨、陶器、いろいろな種類の紙、画帖、書籍などから、加工した宝石のようなものまで、すべて支那産の品物が取りそろえてあったあの店はもう無い。三代もかかって築きあげた一家の繁昌もまことに夢の跡のようであった。その時はお三輪も胸が迫って・・・ 島崎藤村 「食堂」
出典:青空文庫