・・・私は、当日、小作の挿画のために、場所の実写を誂えるのに同行して、麻布我善坊から、狸穴辺――化けるのかと、すぐまたおなかまから苦情が出そうである。が、憚りながらそうではない。我ながらちょっとしおらしいほどに思う。かつて少年の頃、師家の玄関番を・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・しどろもどろの実写だよ。こんどそれを葉山さんのサロンで公開するんだそうだ。所謂、お友達、を集めてね。ところが、その愚劣な映画の弁士を勤めて、お客の御機嫌を取り結ぶのが、僕の役目なんだそうだ。」「それあいい。」私は、大声で笑ってしまった。・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・また芸術的実写映画としての山岳映画や猛獣映画のごときものについても一通り述べたかったのであるが、これらについても他日適当な機会に、他の場所で一応の考察を試みたいと思う。 本編を草するために参考にした書物は次のようなものである。V・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
一 パーロの嫁取り 北極探検家として有名なクヌート・ラスムッセンが自ら脚色監督したもので、グリーンランドにおけるエスキモーの生活の実写に重きをおいたものらしいので、そうした点で興味の深い映画である。グリー・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・それからの後の場面で荒涼たる大雪原を渡ってくるトナカイの大群の実写は、あれは実に驚くべき傑作である。理屈なし説明なしに端的にすべての人の心を奪う種類のフィルムであり、活動映画というものの独自な領域を鮮明に主張したものである。絵ではもちろんの・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・の中にも少しばかりこれに似た実写が插入されているが、前者とは比較にならぬほど美しからぬものに見えた。この「ひとで」はあまりに細工が過ぎているように思われる。もう少し自然な真実なものの適当な理解ある編集によって、もっともっと美しい詩が構成され・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 二 実写映画に関する希望 せんだって「北進日本」という実写映画を見た。いろいろな点でなかなかよくできているおもしろい映画であると思われた。ただ一つはなはだしく不満に思われたのは、せっかくの実写に対する説明の言葉が妙・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ いちばんおもしろいものは実写ものである。こしらえたものにはやはりどこかに充実しない物足りなさがありごまかしきれない空虚がある。そういう意味でニュース映画は自分にとって最もおもしろいものの一つである。たとえばマクドナルドとかフーヴァーと・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・が芸術的に弱いロマンティシズムに捕われながら、手法の上で一種独特の単調な反復を敢てしている点が、私に数ヵ月以前観たドイツのヒマラヤ登攀実写映画を思い出させた。その映画でもやはり人間の努力の姿を語ろうとして同じような山道を攀じ登る姿を繰り返し・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・その前日には、疲れているのに無理であったが北極探険隊の遭難とその救助とモスクの歓迎との実写映画を見てまだ生きていたゴーリキイがスタンドで感動し涙をハンケチで拭いている情景を見ました。五十銭です。何というやすいことでしょう。きょう『日本経済年・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫