・・・その歴史的な亀裂の間から、肉体派小説論、中間派小説論が日本小説のフィクション性を主張して湧き出たが、その文学の空虚な実体があきられて、記録文学の流行を導き出し、その目新しさも忽ち古びて現在では実名小説がはやりはじめた。その実名小説も多くは、・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ちかごろあらわれる実名小説というものも、そこにどういう理窟がつけられようとも、日本の現実におけるそれらの作品の大部分は、私小説から一層文学としての努力をぬきにしてそれを裏がえしたものにすぎない。現代文学の方法が、そのようなタコ壺にはまったと・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・現代文学の素質は戦後になってから戦時中の荒廃をとりもどすどころか、実名小説にまで低下して来た。一九三三年に石坂洋次郎が、左翼への戯画としてかいた「麦死なず」と、一九五〇年に三好十郎が書いた「ストリップ・ショウ・殺意」とを見くらべれば、現代文・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・現代文学は、肉体文学も、社会小説も、実名小説も、きょうのわれわれの生活のこころにふれるものでないから、というのが一つの動因である。だけれども、明治文学、大正文学、そして昭和をきょうの文学まで辿り直して来る、そのことからだけ、新しい人民の生活・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫