・・・池の断面の形をした鉄板の片を電磁石の間において、それに鉄くずを振りかけて、その磁力線の分布を、実地と比較した学生もあった。 池の氷が張りつめた上に、雪が積もると、その表面におもしろい紋のような模様ができる。これはドイツで Dampflc・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・の演奏を写したものであったが、これを見ながら聴きながら考えたことは、自分がベルリンへ行って実地に臨むよりもこうした映画で鑑賞する方が十倍も百倍も面白いのではないかということであった。第一、実地ではこんなに演奏者を八方から色々の距離と角度で眺・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ 自分は、実地を踏んで見るまでは、パリという都をただなんとなしに明るく陽気な所のように想像し、フランス人をのどかに朗らかな民族とばかり思っていたのに、ドイツからフランスへ移って見聞するうちに、この予想がことごとく裏切られた。パリの町はす・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・卒業後長崎三菱造船所に入って実地の修業をした後、三十四年に帰京して大学院に入り、同時に母校の講師となった。その当時理科大学物理学科の聴講生となって長岡博士その他の物理学に関する講義に出席した。翌三十五年助教授となり、四十二年応用力学研究のた・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・珍々先生は現にその妾宅においてそのお妾によって、実地に安上りにこれを味ってござるのである。九 今の世は唯さえ文学美術をその弊害からのみ観察して宛ら十悪七罪の一ツの如く厭い恐れている時、ここに日常の生活に芸術味を加えて生存の楽・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・「それでも一度は実地の所を見て置かないと、どうも安心が出来ないんだ。一体、小説なんぞ書こうという女はどんな着物を着ているんだか、ちょっと見当がつかない。まさか誰も彼もまがいの大嶋と限ったわけでもなかろうからね。」「僕にも近頃流行るま・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・ただいまは高原君が樺太旅行談つけたり海豹島などの話をされましたが実地の見聞談で誠に有益でもあり、かつ面白く聴いておりました。私のは諸君に興味または利益を与えるという点において、とても高原君ほどに参りませぬ。高原君は御覧の通りフロックコートを・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ただ形式ばかりの話ではなはだつまらないが、各自この形式を実地にあてはめて見たらいろいろな鑑定ができるだろうと思う。 競争はとうてい免がれない。また競争がなければ作物は進歩しない。今日の作物がこれまで進歩したのは作家の天分にもよるだろうけ・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・僕は下女に金をもらった覚えはないが、財布の一条は実地の話だった。僕の幼友だちで今、名を知られている人は、山口弘一という人だけだ。この人はたしか学習院の先生かなんかしていられるということだ。くわしくは知らぬ。 そのうちに僕は中学へはいった・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・ 前章にいえる如く、当世の学者は一心一向にその思想を政府の政に凝らし、すでに過剰にして持てあましたる官員の中に割込み、なおも奇計妙策を政の実地に施さんとする者は、その数ほとんどはかるべからず。ただに今日、熱中奔走する者のみならず、内外に・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
出典:青空文庫