・・・業平の朝臣、実方の朝臣、――皆大同小異ではないか? ああ云う都人もおれのように、東や陸奥へ下った事は、思いのほか楽しい旅だったかも知れぬ。」「しかし実方の朝臣などは、御隠れになった後でさえ、都恋しさの一念から、台盤所の雀になったと、云い・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・当人こう見えて、その実方角が分りません。一体、右側か左側か。」と、とろりとして星を仰ぐ。「大木戸から向って左側でございます、へい。」「さては電車路を突切ったな。そのまま引返せば可いものを、何の気で渡った知らん。」 と真になって打・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・自分は科学というものの方法や価値や限界などを多少でも暗示する事が却って百千の事実方則を暗記させるより有益だと信じたい。そうすれば今日ほど世人が科学の真面目を誤解するような虞が少なくなり、また一方では科学的の研究心をもった人物を養成するに効果・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・河童の恋する宿や夏の月湖へ富士を戻すや五月雨名月や兎のわたる諏訪の湖指南車を胡地に引き去る霞かな滝口に燈を呼ぶ声や春の雨白梅や墨芳ばしき鴻臚館宗鑑に葛水たまふ大臣かな実方の長櫃通る夏野かな朝比奈が曽我を・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫