・・・横光利一にとどまらず、日本の野心的な作家や新しい文学運動が、志賀直哉を代表とする美術工芸小説の前にひそかに畏敬を感じ、あるいはノスタルジアを抱き、あるいは堕落の自責を強いられたことによって、近代小説の実践に脆くも失敗して行ったのである。彼等・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・一般に科学というものを知らなかった上古の人間も学としての形態の充分ととのっていない支那や日本の諸子百家の教えも、また文字なき田夫野人の世渡りの法にも倫理的関心と探究と実践とはある。しかし現代に生を享けて、しかも学徒としての境遇におかれたイン・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・鎌倉の五年間に彼は当時鎌倉に新しく、時を得て流行していた禅宗と浄土宗との教義と実践とを探求し、また鎌倉の政治の実情を観察した。彼の犀利の眼光はこのときすでに禅宗の遁世と、浄土の俗悪との弊を見ぬき、鎌倉の権力政治の害毒を洞察していた。二十・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・私はこの書を反復熟読し、それを指導原理として私の実践生活を規範しようとさえもしたが、しかし結局はそれも破綻して、私は倫理学以上の、「善悪を横に截る道」を求めて、宗教的方法の探求へと向かったものであった。 がここでいいたいのは、かような指・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・何故なら愛は実践であり、心霊の清浄と高貴とは愛の実践によってのみ達せられるものだからである。 三 恋愛――結婚 恋愛は女性が母となるための門である。よき恋愛から入らずよい母となることはできぬ。女性は恋愛によって自・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ 芸術でも哲学でも宗教でも、それが人間の人間としての顕在的実践的な活動の原動力としてはたらくときにはじめて現実的の意義があり価値があるのではないかと思うが、そういう意味から言えば自分にとってはマーブルの卓上におかれた一杯のコーヒーは自分・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・今日、人は実践ということを出立点と考える。実践と離れた実在というものはない。単に考えられたものは実在ではない。しかしまた真の実践は真の実在界においてでなければならない。然らざれば、それは夢幻に過ぎない。存在の前に当為があるなどいって、いわゆ・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 新鮮な階級的な知性と実践的な生の脈うちとで鳴っていた「敗北の文学」「過渡期の道標」の調子は、そのメロディーを失って熱いテムポにかわった。情感へのアッピールの調子から理性への説得にうつった。 この時期の評論が、どのように当時の世界革・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・これは党員ではないが、ソヴェト同盟がプロレタリア・農民の国であり、社会主義の社会を建設してゆき、益々富み、階級のない社会とするためには、どういう風に働かなければならないかということを理解し、実践する婦人労働者を皆が選んで、職場でのあらゆるこ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・それに関連する創作方法の問題として、リアリズムの実践も深めなければならなくなって来るのである。 平和が齎されたとき、一つの文化的な記念として戦線から兵士たちが家郷に送った家信集が、是非収録出版されるべきである。今日、所謂高級ではない雑誌・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
出典:青空文庫