・・・る、感心な虫であることは、知っていましたが、木や、竹に、油虫をはこび、せっかく伸びた芽をいじけさせて、その上、根もとに巣をつくり、幹に穴などをあけるのでは、客観的にばかり、ながめてもいられなくなって、害虫として駆除しにかゝったのです。 ・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・これらの虫は害虫だか益虫だか私にはわからなかった。 子供の時分に私の隣家に信心深い老人がいた。彼は手足に蚊がとまって吸おうとするのを見つけると、静かにそれを追いのけるという事が金棒引きの口から伝えられていた。そしてそれが一つの笑い話の種・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・ はげしい音波の衝動のために、害虫がはたしてふるい落とされるか、落とされた虫がそれきりになるかどうか、たしかな事はだれもおそらく知らなかった。しかしこんな事はどうでもいいような気がする。あれはある無名の宗教の荘重な儀式と考えるべきもので・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
私の宅の庭の植物は毎年色々な害虫のためにむごたらしく虐待される。せっかく美しく出揃った若葉はいつの間にかわるい昆虫のために食い荒らされる。なかんずくいちばんひどくやられるのは薔薇である。羽根が黒くて腰の黄色い小さな蜂が、柔・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・電車の不完全な救助網や不潔な腰掛け、倒れそうな石垣やくずれそうな崖、病菌や害虫を培養する水たまりやごみため、亀裂が入りかかって地震があり次第断水を起こすような水道溝渠、こわれて役に立たぬ自働電話や危険な電線工事、こういう種類のものを報道して・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ 野中兼山は椋鳥が害虫駆除に有効な益鳥であることを知っていて、これを保護しようと思ったが、そういう消極的な理由では民衆に対するきき目が薄いということもよく知っていた。それでこういう方便のうそをついたものであろう。「椋鳥は毒だ」と言っ・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・農業の方では害虫の学問があって薬をかけたり焼いたり潰したりして虫を殺すことを考えている。百姓はみんなそれをやる。鯨を食べるならば一疋を一万人でも食べられ、又その為に百万疋の鰯を助けることになるのだが甘藍を一つたべるとその為に青虫を百疋も殺し・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そこに輝やかしきものの源泉があることは当然であるが、それが泉であればあるほど、泉の周囲に生える毒草や飛びこむ害虫がとりのぞかれなければならないのも当然であるまいか。 大衆、民衆というものを、感傷的に一般化して気分的にその現実、日常性との・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・夜も眠らない稲草人の前に、一つ一つくりひろげられる貧しい農家の老婆が害虫と闘い生活と闘う姿や、飲んだくれの夫に売られることを歎いて、投身して死ぬ漁婦の独白は読者の心魂に刻み込まれて消すことの出来ないリアリティーをもって描かれている。 そ・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫