・・・ってきたものであれば、頗る下等な理窟臭い事でも、直ぐにどうのこうのと騒ぐのである、修養を待ず直ぐ出来るような事は何によらず浅薄なものに極って居る、吾邦唯一の美習として世界に誇るべき立派な遊技社交的にも家庭的にも随意に応用の出来る此茶の湯とい・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・の柳吉もボックスに引き出されて一緒に遊んだり、ひどく家庭的な雰囲気の店になった。酔うと柳吉は「おい、こら、らっきょ」などと記者の渾名を呼んだりし、そのあげく、二次会だと連中とつるんで今里新地へ車を飛ばした。蝶子も客の手前、粋をきかして笑って・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・一方で家庭的には当時いろいろな不幸があったりして、心を痛め労することも決して少なくはなかったにかかわらず、少なくも自分の中にはそういうこととは係り合いのない別の世界があって、その世界のみが自分の第一義的な世界であり、そうして生きがいのある唯・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・コンディトライには家庭的な婦人の客が大多数でほがらかににぎやかなソプラノやアルトのさえずりが聞かれた。 国々を旅行する間にもこの習慣を持って歩いた。スカンディナヴィアの田舎には恐ろしくがんじょうで分厚でたたきつけても割れそうもないコーヒ・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・ある婦人雑誌などはその一頁ごとに、洋鬼を殺せ、とおそろしい文字を刷った雑誌を、おとなしい家庭的な日本の妻たちの手もとにおくったのであった。 条理に立つ判断を人民の精神の中から追いはらい、追いはらえないものならば、出来るだけそれを封じこめ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ 第一に健康で心の明るい婦人をというような共通性のほかに、数年前はインテリ型の婦人が求められていたようですが、今日は家庭的な婦人が求められるようになって来ていると思います、という答えがあって、何となし奥行きのある暗示を感じた。答えている・・・ 宮本百合子 「若い世代の実際性」
出典:青空文庫