・・・広津氏は私の所言に対して容喙された。容喙された以上は私の所言に対して関心を持たれたに相違ない。関心を持たれる以上は、氏の評論家としての素質は私のいう第一の種類に属する芸術家のようであることはできないのだ。氏は明らかに私のいう第二か第三かの芸・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・何か云おうとしたが、小川にこう云われると、彼が前々から考えていた、自分の金で自分の子供を学校へやるのに、他に容喙されることはないという理由などは全く根拠がないように思われた。「税金を持って来たんか。」「はあ、さようで……」「それ・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・だが人がよかったので、自分が出しゃばって物事に容喙して、結局は、自分がそれを引き受けてせねばならぬことになってしまっていた。二人が一緒にいると、いつも吉田が、自分の思うように事をきめた。彼が大人顔をしていた。それが小村には内心、気に喰わなか・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・僕の家に、お金が在ろうが無かろうが、君は、それに容喙する権利は、ないのだ。君は、一体、誰だ!」極度の恐怖は、何か、怒りに似た絶叫をも、巻き起すものらしい。おびえる犬の吠えるのも、この類である。 どろぼうは、すっと立って、「金を出せ。・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・あかの他人のかれこれ容喙すべき事がらでない。 私は一読者の立場として、たとえばチエホフの読者として、彼の書簡集から何ひとつ発見しなかった。私には、彼の作品「鴎」の中のトリゴーリンの独白を書簡集のあちこちの隅からかすかに聴取できただけのこ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・科学者にしてかくのごとき問題に容喙する者は、その本分を忘れて邪路に陥る者として非難さるる事あり。しかれども実際は科学者が科学の領域を踏み外す危険を防止するためには、時にこれらの反省的考察が却って必要なるべし。特に予報の問題のごとき場合におい・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・おそらくロシアでは日本などとちがって科学がかなりまで直接政治に容喙する権利を許されているのではないかと想像される。 日本では科学は今ごろ「奨励」されているようである。驚くべき時代錯誤ではないかと思う。世界では奨励時代はとうの昔に過ぎ去っ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫