・・・ 良ちゃんは、いつかもこうして、無理に美しい、コンパクトの容器をもらったことを思い出すと、今度も、これをもらえるのでないかと思いましたから、「僕、これほしいな。」といって、銀の軸に小さな英語の彫ってあるのをじっと見ていますと、「・・・ 小川未明 「小さな弟、良ちゃん」
・・・そして、光ったりっぱな容器の中にはいって、ちゃんと効能書きがついている。田舎だって、もうこうした売薬は、はやらないだろうと思いました。「こうして、歩きなさって、薬が売れますかい。」と、じいさんは、ききました。「偽物が安く買われますの・・・ 小川未明 「手風琴」
・・・支那人は、錻力で特別に作らせた、コルセット様の、ぴったりと人間の胴体に合う中が空洞となった容器に、酒精を満し、身肌につけて、上から服を着、何食わぬ顔で河岸からあがってきた。酒精に水をまぜて、火酒として売りつけた。資本主義時代から、飲んだくれ・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・同時に何ゆえに映画が最も広い総合芸術の容器となりうるかという理由もおのずから理解されるであろうと思われる。 映画芸術が四次元空間における建築の芸術である以上、それをただ一人の芸術家の手で完成することははなはだ困難である。建築が設計者製図・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・の一場面で食卓の上にすみれの花を満載した容器が置いてある、それをアリアーネが鼻をおっつけて香をかいだりいじり回したりするのであるが、はじめは自分にはそれがなんだかよくわからなくて、葡萄でも盛ったくだもの鉢かと思っていた。そのうちに女がまたこ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・無限に大きい容器は何物をも包蔵しない。無限に大きい音は声がない。無限に大きな像には形態がない」と訳してある。「大器晩成」の訳は明らかにちがっているようではあるが、他の三句に対してはこの訳の方がぴったりよく適合するから妙である。それは別として・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・くりくり坊主の桃川如燕が張り扇で元亀天正の武将の勇姿をたたき出している間に、手ぬぐい浴衣に三尺帯の遊び人が肱枕で寝そべって、小さな桶形の容器の中から鮓をつまんでいたりした。西裏通りへんの別の寄席へも行った。伊藤痴遊であったかと思う、若いのに・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ また、粘土などを水に混じた微粒のサスペンションが容器の中で水平な縞状の層を作る不思議な現象がある。普通の理論からすれば、ダルトン方則で、単に普通の指数曲線的垂直分布を示すはずのが、事実はこれに反して画然たる数個の段階に分かれるのである・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・大砲の音やガス容器の爆発の音などとは全くちがった種類の音で、しいて似よった音をさがせば、「はっぱ」すなわちダイナマイトで岩山を破砕する音がそれである。「ドカーン」というかな文字で現わされるような爆音の中に、もっと鋭い、どぎつい、「ガー」とか・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・その数を算定するために、アイケンという人が発明した器械がある。その容器の中の空気に、充分湿気を含ませておいてこれを急激に膨張させると、空気は膨張のために冷却し含んでいた水蒸気を持ち切れなくなるために、霧のような細かい水滴が出来る。この水滴が・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
出典:青空文庫