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・・・翁は、やはり壺をいじりながら、「夜があけると、その男が、こうなるのも大方宿世の縁だろうから、とてもの事に夫婦になってくれと申したそうでございます。」「成程。」「夢の御告げでもないならともかく、娘は、観音様のお思召し通りになるのだと思・・・
芥川竜之介
「運」
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・・・倫敦塔は宿世の夢の焼点のようだ。 倫敦塔の歴史は英国の歴史を煎じ詰めたものである。過去と云う怪しき物を蔽える戸帳が自ずと裂けて龕中の幽光を二十世紀の上に反射するものは倫敦塔である。すべてを葬る時の流れが逆しまに戻って古代の一片が現代に漂・・・
夏目漱石
「倫敦塔」