・・・誇るどころか、実に、いやらしいものだと恥じています。宿業という言葉は、どういう意味だか、よく知りませんけれど、でもそれに近いものを自身に感じています。罪の子、というと、へんに牧師さんくさくなって、いけませんが、なんといったらいいのかなあ、お・・・ 太宰治 「鴎」
・・・人は、もし、ほんとうに自身を虚しくして、近親の誰かつまらぬひとりでもよい、そこに暮しの上での責任を負わされ生きなければならぬ宿業に置かれて在るとしたならば、ひとは、みじんも余裕など持てる筈がないではないか。世評に対しては、ゲエテは、やはり善・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・作家としての、悪い宿業が、多少でも、美しいものを見せられた時、それをそのまま拱手観賞していることが出来ず、つい腕を伸ばして、べたべた野蛮の油手をしるしてしまうのである。作家としての、因果な愛情の表現として、ゆるしてもらいたいのである。美しけ・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・ああ罪業のこのからだ、夜毎夜毎の夢とては、同じく夜叉の業をなす。宿業の恐ろしさ、ただただ呆るるばかりなのじゃ。」 風がザアッとやって来ました。木はみな波のようにゆすれ、坊さんの梟も、その中に漂う舟のようにうごきました。 そして東の山・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫