・・・それに、年来の宿痾が図書館の古い文献を十分に調べることを妨げた。なお、戦争に関する詩歌についても、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」、石川啄木の「マカロフ提督追悼の詩」を始め戦争に際しては多くが簇出しているし、また日露戦争中、二葉亭がガ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・数年来わたくしは宿痾に苦しめられて筆硯を廃することもたびたびである。そして疾病と老耄とはかえって人生の苦を救う方便だと思っている。自殺の勇断なき者を救う道はこの二者より外はない。老と病とは人生に倦みつかれた卑怯者を徐々に死の門に至らしめる平・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・つづいて、野呂栄太郎が検挙され、このひとは宿痾の結核のために拷問で殺されなくても命のないことは明白であると外部でも噂されている状態だった。 一九三三年は、日本の権力が、共産党員でがんばっている者は殺したってかまわない、という方針を内外に・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・私は母と同じ種類の宿痾からそうやって苦痛と闘っていられる姿を全くひとごとならず感じた。 それは、青葉の美しくなりはじめた季節で、病室からの広闊な谷間の眺めは極めて印象的であった。孝子夫人はそのとき、布団の上に坐って、燦とした緑色の外景に・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・マルキシズムの立場で書かれているわけなのだろうが、敗北主義で、政治と文学との見解は、ブルジョア・インテリゲンチアの宿痾、二元論だ。 しかし、言及されているプロレタリア文学の取材、様式の固定化という批判は、そのままとりあげよう。 けれ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫