・・・どんな偉い学者であれ、思想家であれ、運動家であれ、頭領であれ、第四階級な労働者たることなしに、第四階級に何者をか寄与すると思ったら、それは明らかに僭上沙汰である。第四階級はその人たちのむだな努力によってかき乱されるのほかはあるまい。・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・私のこの態度は、全く第三階級に寄与するところがないだろうか。私がなんらかの意味で第三階級の崩壊を助けているとすれば、それは取りもなおさず、第四階級に何者をか与えているのではないかと。 ここに来て私はホイットマンの言葉を思い出す。彼が詩人・・・ 有島武郎 「想片」
・・・若しあすこの土地に人為上にもっと自由が許されていたならば、北海道の移住民は日本人という在来の典型に或る新しい寄与をしていたかも知れない。欧洲文明に於けるスカンディナヴィヤのような、又は北米の文明に於けるニュー・イングランドのような役目を果た・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・ 凡そ何に由らず社会に存在して文明に寄与するの成績を挙げ得るは経済的に独立するを得てからである。誰やらが『我は小説家たるを栄とす』と声言したのは小説家として立派に生活するを得る場合に於て意味もあり権威もあるので、若し小説家がいつまでも十・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・ 人間共存のシンパシィと、先人の遺産ならびに同時代者の寄与とに対する敬意と感謝の心とをもって書物は読まるべきである。たとい孤独や、呪詛や、非難的の文字の書に対するときにも、これらの著者がこれを公にした以上は、共存者への「訴えの心」が潜在・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・つまらない事だが、私が今でもこの国この都を想い出す時に起る何となく美しい快い感じには、この些細な事もいくらかを寄与しているように思う。 諸国を旅してみてもいったん売った電車切符をまた取り戻すような国は稀であった。それで私は国々で乗った電・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・また、日本はその地理的の位置から自然にいろいろな渡り鳥の通路になっているので、これもこの国の季節的景観の多様性に寄与するところがはなはだ多い。雁やつばめの去来は昔の農夫には一種の暦の役目をもつとめたものであろう。 野獣の種類はそれほど豊・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・しかし彼の業績は世界人類の共有財産に莫大な寄与を残した。彼はまた見方によれば一種のディレッタントであったようにも見える。しかし如何なるアカデミックな大家にも劣らぬ古典的な仕事をした。彼は「英国の田舎貴族」と「物理学」との配偶によってのみ生み・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・それらの相反するものが融合調和し相互に扶助し止揚することによって一つの完全なる全体を合成し、そうして各因子が全体としての効果に最も有効に寄与しているのでなければならない。こういうわけであるから、連句のメンバーは個性の差違を有すると同時に互い・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
「現代日本小説大系」が刊行される意味は、ただ日本の近代文学をもう一遍よみかえし、検討し、将来の文学に寄与するという風な、すべてのこれまでの刊行会の挨拶の範囲では、使命が果されないと思う。これはまじめに日本の社会の推移を基礎に・・・ 宮本百合子 「「現代日本小説大系」刊行委員会への希望」
出典:青空文庫