・・・一家富まざれば一国富むの日あるべからず。教育の目的、齟齬したるものというべし。 日本の教育がなにゆえにかくも齟齬したるやと尋ぬるに、教育さえ行きとどけば、文明の進歩、一切万事、意の如くならざるはなしと信じて、かえってその教育を人間世界に・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・仏蘭西の南部は葡萄の名所にして酒に富む。而してその本部の人民にははなはだしき酒客を見ざれども、酒に乏しき北部の人が、南部に遊び、またこれに移住するときは、葡萄の美酒に惑溺して自からこれを禁ずるを知らず、ついにその財産生命をもあわせて失う者あ・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・鶏の肉はただこのように滋養に富むばかりでなく消化もたいへんいいのです。殊に若い鶏の肉ならば、もうほんとうに軟かでおいしいことと云ったら、」先生は一寸唾をのみました、「とてもお話ではわかりません。食べたことのある方はおわかりでしょう。」 ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・の住人どもに与えられているのは、ブルジョア国家がその税で富むところの火酒と教会と無智であった。。そしてもちろん、ブルジョアが美しい馬にひかせた橇で雪をけたててやって来る劇場へは、入るどころではなかった。 十月の革命は、ロシアの支配者をブ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・資本主義の社会そのものが、社会に貧富の差を生み出し、働く人々の階級と働かせて無為に富む階級とをつくり出した。しかもその社会の本質は、自力でその矛盾を解決する力を失っているから恋愛、結婚における貞潔の社会的根拠というものも保証しかねているので・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・ したが分にかって富む人の情ない持前で貧しいものにようめぐみもせいで只宝の数の増して行くのばかりをたのしんで居りまいた。 或日一人の美くしい乙女が一つの小石を持って参って春は紫に夏はみどりに秋は黄金色に冬が参れば銀色に輝くと申しのこ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・というバルザックの実践的な結論と、彼が法律や権力の偽善をあばき、それが富者のより富むための道具に過ぎぬことを実に彼独特の巨大な熱情と雄弁とで曝露した事実とは一見矛盾するが如くであって、而も彼にあっては些の撞着もなかった。何故ならば、オノレ・・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・きわめて柔軟で同情に富む天質をもって生れ、従ってその時代の人間性を強調する息吹きにも感じ易かったシドニー・ハーバートは、フロレンスの指揮と指導の性質にひきよせられ、公共の目的のためには全く献身的な独特な友情を保った。そのほか、このグループの・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ これらの遺憾な諸点にかかわらず、この一篇は、有益でもあり、示唆に富む作品である。翻訳も流暢と云えないまでも、忠実にされていることがわかる。「支那ランプの石油」その他この作者の作品を読んで見たいと思わせる作品である。 注意をひかれる・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
出典:青空文庫