・・・して見ると、まさか電車の車掌がその度に寝惚けたとも申されますまい。現に私の知人の一人なぞは、車掌をつかまえて、「誰もいないじゃないか。」と、きめつけると、車掌も不審そうな顔をして、「大勢さんのように思いましたが。」と、答えた事があるそうです・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ と清い声、冷かなものであった。「弘法大師御夢想のお灸であすソ、利きますソ。」 と寝惚けたように云うと斉しく、これも嫁入を恍惚視めて、あたかもその前に立合わせた、つい居廻りで湯帰りらしい、島田の乱れた、濡手拭を下げた娘の裾へ、や・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・それともいくら分析してもどこまでも不飽和な寝惚けた鼠色に過ぎないだろうか。この疑問に答える前には先ず分光器それ自身の検査が必要になる。 批評の態度には色々ある。批評家自身の芸術観から編み上げた至美至高の理想を詳細に且つ熱烈に叙述した後に・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
出典:青空文庫