・・・どうか又雲気さえ察する程、聡明にもして下さいますな。 とりわけどうか勇ましい英雄にして下さいますな。わたしは現に時とすると、攀じ難い峯の頂を窮め、越え難い海の浪を渡り――云わば不可能を可能にする夢を見ることがございます。そう云う夢を見て・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・よく親の顔色を見、その心持を察するばかりでなく、嘘と真とを聞き分ける能力を持つことに於て、まことに驚かされるものがあります。 また、これに反して、たとえば、お母さん達が、子供を訓戒するための方便として、空涙を出されても、或は、いかに上手・・・ 小川未明 「読んできかせる場合」
・・・長女のマサ子も、長男の義太郎も、何か両親のそんな気持のこだわりを敏感に察するものらしく、ひどくおとなしく代用食の蒸パンをズルチンの紅茶にひたしてたべています。「昼の酒は、酔うねえ。」「あら、ほんとう、からだじゅう、まっかですわ。」・・・ 太宰治 「おさん」
・・・けれど、誰やら六畳の居間に寝ているような気はいだけは察することができた。僕は雨戸からからだを離し、もいちど呼ぼうかどうかを考えたのであるが、結局そのまま、また僕の家へひきかえして来たのである。覗いたという後悔からの気おくれが、僕をそんなにし・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・あるいは一人と一人との私交なれば、近く接して交情をまっとうするの例もなきに非ざれども、その人、相集まりて種族を成し、この種族と、かの種族と相交わるにいたりては、此彼遠く離れて精神を局外に置き遠方より視察するに非ざれば、他の真情を判断して交際・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・君はそれを察する。そして多少気まずく思う。その上余り頻りに往来した挙句に、必然起る厭倦の情も交って来る。そこで毎日来た君が一日隔てて来るようになる。二日を隔てて来るようになる。譬えて言えば、二人は最初遠く離れた並行線のように生活していたのに・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫