・・・手紙で返事を寄こして、僕、寡聞にして、ヘルベルト・オイレンベルグを知りませず、恥じている。マイヤーの大字典にも出て居りませぬし、有名な作家ではないようだ。文学字典から次の事を知りました、と親切に、その人の著作年表をくわしく書いて送って下さっ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ ドイツ側は勿論、聯合軍側でも気象学者がどれだけ活動しているかについては寡聞にして何らの報告にも接しないが、ドイツのごとき国柄では平生から推して考えてもほぼ想像は出来る。必ずこの方面にもぬかりなくやっているに相違ない、敵国側の観測材料を・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・これは私の寡聞のせいばかりではないらしい。そういう事を研究することを喜ばないような日本現時の不思議な学風がそういう研究の出現を阻止しているのではないかと疑われる。 余談ではあるが、先日田舎で農夫の着ている簔を見て、その機構の巧妙と性能の・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・わたくしは此のたびの草稿に於ては、明治年間の東京を説くに際して、寡聞の及ぶかぎり成るべく当時の人の文を引用し、之に因って其時代の世相を窺知らしめん事を欲しているのである。 松子雁の饒歌余譚に曰く「根津ノ新花街ハ方今第四区六小区中ノ地ニ属・・・ 永井荷風 「上野」
・・・その方面の知識に疎い寡聞なる余の頭にさえ、この断見を否定すべき材料は充分あると思う。 社会は今まで科学界をただ漫然と暗く眺めていた。そうしてその科学界を組織する学者の研究と発見とに対しては、その比較的価値所か、全く自家の着衣喫飯と交渉の・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・世間に所謂女学生徒などが、自から浅学寡聞を忘れて、差出がましく口を開いて人に笑わるゝが如きは、我輩の取らざる所なり。一 既に優美を貴ぶと言えば、遊芸は自から女子社会の専有にして、音楽は勿論、茶の湯、挿花、歌、誹諧、書画等の稽古は、家計の・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・私は寡聞にして殆ど女性の手になったものを知らない。一つには、女性の犯罪が原始的な故もある。獄中生活を記録し、批判するだけの教養があったら行わない犯罪が女囚には多い。それは頷ずけるが、教育あり、現代の社会に批判もある筈の人が、非常に不運な事情・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・が、私は寡聞で有名なゴンクール賞のほか評論に対する賞、優秀な新聞記者としての仕事に与えられる賞等、三つ四つ記憶しているきりである。アメリカのジャーナリズム及び文学に関する賞として一九一七年から始められているピュリッツァ賞、ソヴェト同盟のゴー・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・かかる日本文学古典上の評価の規準の推移に関するまとまったものとしては寡聞にして僅に久松潜一氏の『日本文学評論史』二巻があるばかりである。 きのう、そして今日の日本の文化の一般的実質が健全に発育し豊富であるというには未だ未だ遠い現実である・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫