・・・彼等は一寸話を中止して、豚小屋の悪臭に鼻をそむけた。 それまで、汚れた床板の上に寝ころんで物憂そうにしていた豚が、彼等の靴音にびっくりして急に跳ね上った。そして荒々しく床板を蹴りながら柵のところへやって来た。 豚の鼻さきが一寸あたる・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・ 茲で一寸話が大戻りをするが、私も十五六歳の頃は、漢書や小説などを読んで文学というものを面白く感じ、自分もやって見ようという気がしたので、それを亡くなった兄に話して見ると、兄は文学は職業にゃならない、アッコンプリッシメントに過ぎないもの・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・ 千世子は一寸話を止めた。 そしてかなりの間口を開かなかった。「どうしたんです? 気分が悪いんですか。 篤は千世子の顔をのぞき込みながらきいた。 小さい子供のする様に千世子は首を横に振った。 しばらく・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 一寸話が変って、この頃の娘たちはよく外でお茶をのんだり、おしる粉屋へ入ったり、そのまたはしごをするということが、ある滑稽さで云われる。人によっては、それを現代の娘の浪費癖という風にも見ている。男の学生たちが喫茶店にゆくのと同じ心理・・・ 宮本百合子 「若い娘の倫理」
出典:青空文庫