・・・且つ寺子屋仕込みで、本が読める。五経、文選すらすらで、書がまた好い。一度冥途をってからは、仏教に親んで参禅もしたと聞く。――小母さんは寺子屋時代から、小僧の父親とは手習傍輩で、そう毎々でもないが、時々は往来をする。何ぞの用で、小僧も使いに遣・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・最初に登場する寺子屋の寺子らははなはだ無邪気でグロテスクなお化けたちであるが、この悲劇への序曲として後にきたるべきもののコントラストとしての存在である以上は、こうした粗末な下手な子供人形のほうが、あるいはかえって生きたよだれくりどもよりよい・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・重兵衛さんの晩酌時の講話の時に授かったものであった。重兵衛さんの寺子屋時代の悪戯にはずいぶん過劇なものもあったようである。 こういう、学校では教わらない悪戯教育も、今から考えてみると自分には色々な意味で有益であり貴重なものであったように・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・これから見ると、昔の人は、不完全な寺子屋の階段を手を引いてもらってやっと上がると、それから先は自分で階段を刻んだり、蔓にすがって絶壁をよじるような思いをしなければならなかった。それで大概の人は途中で思い切ってしまっただろうが、登りつめた人の・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
出典:青空文庫