・・・あとで寺男が直しますでの。石段が欠けて草蓬々じゃ、堂前へ上らっしゃるに気を着けなされよ。」 この卵塔は窪地である。 石を四五壇、せまり伏す枯尾花に鼠の法衣の隠れた時、ばさりと音して、塔婆近い枝に、山鴉が下りた。葉がくれに天狗の枕のよ・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・これは、寺男の爺やまじりに、三人の日傭取が、ものに驚き、泡を食って、遁出すのに、投出したものであった。 その次第はこうである。 はじめ二人は、磴から、山門を入ると、広い山内、鐘楼なし。松を控えた墓地の入口の、鎖さない木戸に近く、八分・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・巡査、おかみ、円覚寺の寺男。 ○肝癪のいろいろ 十月の百花園 ○部屋をかりに行った中野近くの医者、 パオリ オランダ人。伊太利らしいパオリという名をつけて。よせ芸人一、神田辺の日本下宿一、彼の部屋・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫