・・・のアフレコを行うというややこしい形式を試みてドストイエフスキイにヒントを得た人間の対決の可能性を追究し、同時に、近代小説の形式的可能性をデフォルムした。が、サルトルはスタンダールやジイドの終った所からはじめず、彼等がはじめなかった所からはじ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・に、もし今までの作品とちがうものがあるとすれば、文学は誇張だとはっきり自覚した僕の若さが作品を燃えさせている点であると、うぬぼれている。この僕の考え方はまちがっているかも知れない。しかし「縮図」に対決するには、もうこの一手しかない。僕はこん・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・そしてまた、私をそうさせた外界というものに対決しようと思う。これらは、文学でのみ出来る仕事だからだ。この点、私は幸福をすら感じている。 私がしかし、右の仕事を終った時どうなるか。私が目下書きまくっている種類の作品を書きつくした時、私は何・・・ 織田作之助 「私の文学」
・・・日蓮はここにおいて決するところあり、自ら進んで、積極的に十一通の檄文を書いて、幕府の要路及び代表的宗教家に送って、正々堂々と、公庁が対決的討論をなさんことを申しいどんだ。 これは憂国の至情黙視しておられなかったのであるが、また彼の性格の・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・音楽が人間の生活に向き合って対決を迫るとは、邪道だと思うんです。音楽の本質は、あくまでも生活の伴奏であるべきだと思うんです。僕は今夜、久し振りにモオツアルトを聞き、音楽とは、こんなものだとつくづく、……」「僕は、ここから乗るがね。」・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・それは知識と真実在との深刻なる対決である。しかし真実在の問題は不可知的なる物自体の問題として捨てられた。問題を打ち切ってしまえばそれまでであるが、そこに多く問題が残されているといわざるを得ない。哲学は主観主義的となった。無論それを心理主義的・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ということは、こんにちの社会情勢について、国際情勢について、もっとも多くの知識をもち、歴史的見通しをもった、いわば前衛的な人々が、大胆に権力と対決してゆくというだけの単純なことではありません。「進歩」ということは、その時代の常識の最高の線に・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・デュガールは、ジャックをとりかこむそれぞれの時期における社会的環境の特質とジャックの人間性の覚醒――自意識のめざめの段階とを対決させつつ、ジャックとその社会の動きを描いている。ジャックという一人の人間が、一定の社会史の期間をとおして、その矛・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ 森鴎外にしろ、夏目漱石にしろ、荷風にしろ、当時の社会環境との対決において自分のうちにある日本的なものとヨーロッパ的なものとの対立にくるしんだ例は、日本の文化史の上にどっさりある。漱石が生涯の最後に「明暗」をかきながら、自分の文学のリア・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・自分の体力、智力、自分とひととの経験の総和についての知識とその実力とが、むき出しな自然の動きと直面し対決してゆく、その味わいでの山恋いではないだろうか。槇有恒氏の山についての本はどんなその間の機微を語っているか知らないけれど、岩波文庫のウィ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
出典:青空文庫