・・・ことに空気を局部的に熱したときに起る対流渦動の実験にはいつもこれを使っていたが、後には線香の煙や、塩酸とアンモニアの蒸気を化合させて作る塩化アンモニアの煙や、また近頃は塩化チタンの蒸気に水蒸気を作用させて出来る水酸化チタンの煙を使ったりして・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・ひとつながりの記憶の蛇形池の中で「記憶の対流」とでもいったようなものが行なわれるらしい。 第三線にはかなりの幅がある。自分が世間に踏み出してからの全生涯がこの線の中に含まれているからである。そうしてこの線を組織するきわめて微細な繊維のよ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・自分はかつて、例の液の熱対流による柱状渦の一例として、放射形の縞模様を作ることができた。また床上に流した石油に点火するときその炎の前面が花形に進行する現象からもまた、放射形柱状渦の存在を推定したことがあった。それの類推的想像と、もう一つは完・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ たとえば長方形の水槽の底を一様に熱するといわゆる熱対流を生ずる。その際器内の水の運動を水中に浮遊するアルミニウム粉によって観察して見ると、底面から熱せられた水は決して一様には直上しないで、まず底面に沿うて器底の中央に集中され、そこから・・・ 寺田寅彦 「とんびと油揚」
・・・これには対流による渦動の問題がある。また半ば満たした金だらいの中央にコップの水を注入する時に水面に菊花状の隆起を生じる事がある。これもまた渦動の一問題であるらしい。また半球形の湯飲み茶わんに突然水を放射すると水は器壁に沿うて走り上り、縁から・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・夏じゅうは昼間に暖まった甕の水が夜間の放熱で表面から冷え、冷えた水は重くなって沈むのでいわゆる対流が起こる。そのおかげで水が表面から底まで静かにかき回され、冷却されると同時に底のほうで発生した悪いガスなどの蓄積も妨げられる。それを、木のふた・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・例えば天秤で重量を測るにしても、箱の片側に日光が当って箱の中の空気の対流を生じたり、腕の比が変ったり、蓋の隙間から風がはいったり、刃のところに塵がたまっていたり、皿に水滴が付いていたりするのに、このような事には一切構わず、ただ機械的に「物理・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫