・・・という次第は、彼ら争闘を続けている限りは、その自由をうる時がない、すなわち幽閉である。封じかつ縛せられているのである。人類相争う限り、彼らはまだ、その真の自由を得ていないという意味を示してみたいものである。」「お示しなさいな。御勝手に」・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・この袂の中に、十七八の藤さんと二十ばかりの自分とが、いつまでも老いずに封じてあるのだと思う。藤さんは現在どこでどうしていてもかまわぬ。自分の藤さんは袂の中の藤さんである。藤さんはいつでもありありとこの中に見ることができる。 千鳥千鳥とよ・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ かくして太織の蒲団を離れたる余は、顫えつつ窓を開けば、依稀たる細雨は、濃かに糺の森を罩めて、糺の森はわが家を遶りて、わが家の寂然たる十二畳は、われを封じて、余は幾重ともなく寒いものに取り囲まれていた。 春寒の社頭に鶴を夢みけり・・・ 夏目漱石 「京に着ける夕」
・・・しかし郵便を出してくれると聞いて、自分も起き直って、ようよう硯など取り出し、東京へやる電報を手紙の中へ封じてある人に頼んでやった。こういう際には電報をやるだけでもいくらかの心やりになるものだ。この夜また検疫官が来て、下痢症のものは悉く上陸さ・・・ 正岡子規 「病」
・・・しかし、その声は完く封じられていた。 今日、こういう過程を経た新聞人の進歩的な要素が、わたしたち人民の、ひろく強く生き進もうとする熱意と本当に自然な一致をもって結び合わされつつあるのは、実に意義深いことだと思う。言論が客観的な真理に立つ・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
・・・という自身には封じられていた希望で、田畑を売ってまで「大学を出した」日本の親のいじらしい心は、他の半面で、日本の軍国主義社会を支え維持させて行く大きな経済的社会的基盤となった。というのは「うちの息子は学問ができて人物もしっかりしているのに、・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・浅慮とかいうものを抽象して来て、欲ばるとこんな目に会うぞという教訓を与えようとする場合、たれの心にでも、つまりどんな地位、階級のものにでもめいめいの立場によって生じる主観的な実際行為の正常化を前もって封じて、いおうとする話を受け入れさせるた・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・そしてそういう美の世界では、宗達が嘗つて人間を自在に登場させた可能が封じられて、おのずから波や花鳥、人生としては従のものが図案の主な題材とならざるを得なかったということも示唆にとんでいる。 秋声・藤村 藤村と秋・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ 自分のこころもち、自分の考えを、どこまでも私ごとという、カラの中に封じておくならば、決して社会は進歩いたしません。 私たちのめいめいの心もち、考えの中に、ひろくひろく「公」の要素が加って、「私」の見解はとりもなおさず、一つのれ・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
河上氏の私に対する反ばくは一種独特な説諭調でなかなか高びしゃである、が、論点が混乱していて、多くの点が主観的すぎる。河上氏は私が「読者の声を拒絶し、封じ」「一切の批判をさしひかえ」させようとするかのように書いているが、全く・・・ 宮本百合子 「河上氏に答える」
出典:青空文庫