・・・曾て或る洋学者が妻を娶り、其妻も少し許り英語を解して夫婦睦じく家に居り、一人の老母あれども何事も相談せざるのみか知らせもせずに、夫婦の専断に任せて、母は有れども無きが如し。或るとき家の諸道具を片付けて持出すゆえ、母が之を見て其次第を嫁に尋ぬ・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ アメリカへの戦争準備を強行中の軍事力は専断のかぎりをつくした。情報局でこしらえたジャーナリストと役人との、執筆者リストのようなものを、そのころ偶然みたことがあった。それは、当時の輿論が、どんなにふみにじられたものであったかを証明した。・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ 誕生このかた不断の栄養失調のうちに辛うじて息づいて来た旧日本文学の精神は、全く非人間的な擅断と営利主義とによって導かれた自身の崩壊さえも、その事実の重大さにおいて自覚し得なかった。 新しい文学創造の源泉は決して器用な便乗の手際には・・・ 宮本百合子 「新日本文学の端緒」
・・・それは、検事の理解に一致しないすべての証言は、偽証であって、偽瞞であるとこのような独断的、専断的言辞に対して私は心からの憤まんをもっています。」つづいて金被告ものべた。「偽証罪に対する起訴取消を行っていただきたい。」「検事がこのようにすべて・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 知られているとおり、フランスのロマンチスト達は、人類の大きい理想をめざして闘われた筈の大革命が、ブルジョア階級の擡頭によって、成上り者の専断、金銭万能の社会となった現実の「若き失望のカリカチュア」に反撥して、芸術運動の中に、ブルジョア・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 日本の天皇制権力が満州・中国と侵略をすすめて、世間の輿論も、議会の討論も邪魔と考えはじめてから、日本全国には政治がなくなって強権の専断ばかりになった。その時分、翼賛会ができた。議会は政府案に決して反対しないという条件の翼賛議会になり、・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫