・・・そして十四、五分の後にはまた翅をはってうなりを立てながら、眼を射るような日の光の中に勇ましく飛び立って行った。 夏物が皆無作というほどの不出来であるのに、亜麻だけは平年作位にはまわった。青天鵞絨の海となり、瑠璃色の絨氈となり、荒くれた自・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・まだそれよりか、毒虫のぶんぶん矢を射るような烈い中に、疲れて、すやすや、……傍に私の居るのを嬉しそうに、快よさそうに眠られる時は、なお堪らなくって泣きました。」 聞く方が歎息して、「だってねえ、よくそれで無事でしたね。」 顔見ら・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・ 岡崎の化猫が、白髪の牙に血を滴らして、破簾よりも顔の青い、女を宙に啣えた絵の、無慙さが眼を射る。 二「さあさあ看板に無い処は木曾もあるよ、木曾街道もあるよ。」 と嗾る。…… が、その外には何も言わぬ・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・廊下をばらばらと赤く飛ぶのを、浪吉が茱萸を擲つと一目見たのは、矢を射るごとく窓硝子を映す火の粉であった。 途端に十二時、鈴を打つのが、ブンブンと風に響くや、一つずつ十二ヶ所、一時に起る摺半鉦、早鐘。 早や廊下にも烟が入って、暗い中か・・・ 泉鏡花 「朱日記」
・・・ 折から一天俄に掻曇りて、どと吹下す風は海原を揉立つれば、船は一支も支えず矢を射るばかりに突進して、無二無三に沖合へ流されたり。 舳櫓を押せる船子は慌てず、躁がず、舞上げ、舞下る浪の呼吸を量りて、浮きつ沈みつ、秘術を尽して漕ぎたりし・・・ 泉鏡花 「取舵」
・・・赫と射る日に、手廂してこう視むれば、松、桜、梅いろいろ樹の状、枝の振の、各自名ある神仙の形を映すのみ。幸いに可忌い坊主の影は、公園の一木一草をも妨げず。また……人の往来うさえほとんどない。 一処、大池があって、朱塗の船の、漣に、浮いた汀・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・大角猶ほ遊人の話頭を記する有り 庚申山は閲す幾春秋 賢妻生きて灑ぐ熱心血 名父死して留む枯髑髏 早く猩奴名姓を冒すを知らば 応に犬子仇讐を拝する無かるべし 宝珠是れ長く埋没すべけん 夜々精光斗牛を射る 雛衣満袖啼痕血痕に・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ それも、そのはずで、おじいさんは若い時分から弓を射ることが上手で、どんな小さな鳥でも、ねらえば、かならず射落としたものです。よく、晩方の空を飛んでいくかりを射落としたり、はたけで遊んでいるすずめを射とめたりしました。だからおじいさんを・・・ 小川未明 「からすとかがし」
・・・氷がとつぜん二つに割れて、しかもそれが、箭を射るように沖の方へ流れていってしまうことは、めったにあるものでない。こんな不思議なことは、見たことがない。それにしても、あの氷といっしょに流されてどこかへいってしまった三人を、どうしたらいいものだ・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・それは日に熟んだ柿に比べて、眼覚めるような冷たさで私の眼を射るのだった。そのあたりはすこしばかりの平地で稲の刈り乾されてある山田。それに続いた桑畑が、晩秋蚕もすんでしまったいま、もう霜に打たれるばかりの葉を残して日に照らされていた。雑木と枯・・・ 梶井基次郎 「闇の書」
出典:青空文庫