・・・ 決して途中に立ち止まって、射撃なぞをするじゃないぞ。五尺の体を砲弾だと思って、いきなりあれへ飛びこむのじゃ、頼んだぞ。どうか、しっかりやってくれ。」 将軍は「しっかり」の意味を伝えるように、堀尾一等卒の手を握った。そうしてそこを通り過・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・わたくしはあなたが、たびたび拳銃で射撃をなさる事を承っています。わたくしはこれまで武器というものを手にした事がありませんから、あなたのお腕前がどれだけあろうとも、拳銃射撃は、わたくしよりあなたの方がお上手だと信じます。 そこでわたくしは・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・敵の射撃は彼の通り猛烈だったからな。好し一つ頭を捻向けて四下の光景を視てやろう。それには丁度先刻しがた眼を覚して例の小草を倒に這降る蟻を視た時、起揚ろうとして仰向に倒けて、伏臥にはならなかったから、勝手が好い。それで此星も、成程な。 や・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ どこからともなく、誰れかに射撃されたのだ。 二人が立っていたのは山際だった。 交代の歩哨は衛兵所から列を組んで出ているところだった。もう十五分すれば、二人は衛兵所へ帰って休めるのだった。 夕日が、あかあかと彼方の地平線に落・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・逃げる奴は射撃した。 それは、一時途絶えたかと思うと、また、警戒兵が気を許している時をねらって、闇に乗じてしのびよってきた。 五月にもやってきた。六月にもやってきた。七月にもやってきた。「畜生! あいつらのしつこいのには根負けが・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・彼等はそれをめがけて射撃した。 相手が×間でなく、必ずうてるときまっているものにむかって射撃するのは、実に気持のいゝことだった。こちらで引鉄を振りしめると、すぐ向うで豚が倒れるのが眼に見えた。それが実に面白かった。彼等は、一人が一匹をね・・・ 黒島伝治 「前哨」
ここでは、遠くから戦争を見た場合、或は戦争を上から見下した場合は別とする。 銃をとって、戦闘に参加した一兵卒の立場から戦争のことを書いてみたい。 初めて敵と向いあって、射撃を開始した時には、胸が非常にワク/\する。・・・ 黒島伝治 「戦争について」
・・・そこから十間ほど距って、背後に、一人の将校が膝をついて、銃を射撃の姿勢にかまえ兵卒をねらっていた。それはこちらからこそ見えるが、兵卒には見えないだろう。不意打を喰わすのだ。イワンは人の悪いことをやっていると思った。 大隊長が三四歩あとす・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・軍隊の中に這入って、銃の持ち方や、射撃のし方を学ばなければならない。機関銃の使い方も、野砲の使い方も、重砲の使い方も、また飛行機の操縦法も、戦車の操縦法も学ばなければならない。そして、その武器を、ストライキをやった同志や親爺や兄弟達にさしむ・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・彼等はそれを、ねらいもきめず、いいかげんに射撃した。 左翼の疎らな森のはずれには、栗本の属している一隊が進んでいた。兵士達は、「止れ!」の号令がきこえてくると、銃をかたわらに投げ出して草に鼻をつけて匂いをかいだり、土の中へ剣身を突きこん・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
出典:青空文庫