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・・・渠は名を近藤重隆と謂う陸軍の尉官なり。式は別に謂わざるべし、媒妁の妻退き、介添の婦人皆罷出つ。 ただ二人、閨の上に相対し、新婦は屹と身体を固めて、端然として坐したるまま、まおもてに良人の面を瞻りて、打解けたる状毫もなく、はた恥らえる風情・・・
泉鏡花
「琵琶伝」
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・・・フライやサラダの皿が出たとき、「そんな君の尉官の襟章で、ここにいてもいいのですか。」と梶は訊ねてみた。「みなここの人は僕のことを知ってますよ。」 栖方は悪びれずに答えた。そのとき、また一人の佐官が梶の傍へ来て坐った。そして、栖方・・・
横光利一
「微笑」