・・・人の命を荒っぽく扱うにならされた日本のすべての人が、ひとの命、自分の命の尊厳を知ること。人間同士にそくいんの情をもつこと。その心がつちかわれないなら日本の民主化とか平和への希望というものは根をもたないことを強調していた。これは、吉村隊の惨虐・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・自分は編輯責任者として尊厳冒涜という条項に該当するのだそうである。時刻が時刻なのですっかり腹がすき、自分が激しい食慾で弁当をたべているむかい側で清水は何も食べず、煙草をふかしている。そして自分は女房には絶対服従を要求しているが、工合がわるい・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・に於て官製であったと同じように文化も官製の性質を持っており、明治中葉以後のインテリゲンツィアに依って作られた文学は、主として官製なるものに、或は過去の儒的なものに対して、自覚された人間性の自由と自我の尊厳とを主張したものであった。先に述べた・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・思想の尊厳六。社会に於る作家の役割七。文芸創作八。文化擁護のための作家の行動。その統制。 文学は本質において民族的であると共に人類的であり、たとえどのような意図の上に行われても、ともかく日本文学が翻訳され海外紹介されなけ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 女性の感情の至純さと、素質の平等、一言に云えば夫人の良人に対する知と云うものに尊敬の払えないような、所謂男らしい欠点を多大に持った人は、こちらの女性に対して、彼の持つ、哀れむべき尊厳を犯される不安から、虚勢を張ってけなしてしまいます。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・フランスの人々が、人民戦線によってめいめいの近代的自我を主張し、個人の尊厳をまもった努力にくらべれば、日本でいわれた人民戦線、行動主義の文学能動精神などというものは、実に社会的誠意をもっていなかった。 プロレタリア文学運動に加えられた野・・・ 宮本百合子 「自我の足かせ」
・・・日本人が今日、当然もつべき一個人としての品位と威厳とを身につけていないことを外国に向って愧じるならば、それは、現代日本の多数の人々を、明治以来真に人格的尊厳というものが、どういうものであるかをさえ知らさないように導いて来た体制を、今なお明瞭・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・ 王様は、絶対無二、尊厳であり偉大であり完全でありたかったのに、不仕合わせな耳が彼を苦しめる種となったので、悪口、批評の根絶やしをしたくて、皆の耳を自分と同じようにさせて、ホッと安心しました。ほんとにこれなら、先ず大丈夫と思っていたので・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 児童教育の理想を話される時など、人性の尊厳、微妙さの感歎、セコンド・ジェネレーションに対する健全な期待の心などが、流露した。先生の話を伺っているうちに、若いものは、生活を愛し、価値を高め、積極道に活きずに居られないような、光明、希望、・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・シェクスピアのオセロの心理には、黒人という生れあわせに対するオセロの白い皮膚のひとと等しい人間的尊厳の主張や自尊心やが作用している。美しいしとやかなデスデモーナが、父の許を訪ねて来て、その雄々しい物語をするオセロに心をひかれ、結婚する気分も・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
出典:青空文庫