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・・・謹啓、よもの景色云々と書きだして、御尊父様には御変りもこれなく候や、と虚心にお伺い申しあげ、それからすぐ用事を書くのであった。はじめお世辞たらたら書き認めて、さて、金を送って下されと言いだすのは下手なのであった。はじめのたらたらのお世辞がそ・・・
太宰治
「ロマネスク」
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・・・御帰りで御ざいますそうな」と御八重が来る。これはちと話の順序がちがっているようだ。料理人篠村宇三郎、かご入りの青海苔を持って来て、「これは今年始めて取れましたので差上げます。御尊父様へよろしく」と改まったる御挨拶で。そのうち汽船の碇を下ろす・・・
寺田寅彦
「高知がえり」