・・・その同じ娘が 人中では顔も小ぢんまり 気どる。スースーとモダン風な大股の歩きつきで。それに対する反感。 十一月初旬の或日やや Fatal な日のこと。梅月でしる粉をたべ。 午後久しぶりでひ・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・本棚がある。小ぢんまりした化粧台がある。壁にクルプスカヤとレーニンの肖像画がはってある。「わたし共のところはまだ女の学生がすくないんです。だから今のところ、あっちや、こっちに、こうして室をもっているのです」 ソヴェト同盟では、ピオニ・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・ 千世子はだまって小ぢんまりした束髪に結って年にあわせては、くすんだ衿をかけて居る女のいたいたしく啜り泣くのを見て居た。「泣くのなんかお止めよ、 ね。 悪いこっちゃあないんだもの、 私だってよろこんで居るんだよ。」 ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・どこと云って目立つところのない、おとなしい小ぢんまりした色艷のよくないその顔は、顎の骨がいくらか張っていた。特徴がないその顔には、しかし、何年も一つ仕事についていて、しかも朝暮本ばかりを対手にしている人間の、表情の固定した、おとなしい強情さ・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・ 長崎図書館は、諏訪公園内に在る小ぢんまりした図書館だ。昔、グラント将軍が来た時、滞留させるに適当なところがなく、其為に交親館というのを此処に建ててその用に供した。其を改造したものだそうだ。入口から、上野のように陰気で物々しくないのがよ・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・グラント将軍が来朝した時建てた交親館を改造した小ぢんまりした建物だ。館長室に故渡辺与平の油絵と、同じ人の墨絵の竹の軸がかかっていた。永山氏は、長崎史研究者として知られている。その節、永山氏も云われたことだが、長崎は、日本文明史に重大な関係を・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・その風知草は、小ぢんまりした鉢植で、巣鴨の拘置所の女区第十房の窓の前におかれていた。出来るかぎりぴったりと窓に近づけて置いてあるのに、風知草の細い葉のさきさえも戦がなかった。いつみても、どんなに待っていても、夜中でさえもその風知草の葉が動く・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 入口廊下から直ぐの小ぢんまりした室だ。婦人科用寝台、その他がそなえつけられて、大きい窓からキラキラ日光がさし込んでる。「いよいよ出産が近いとわかると、この室で」 次の室の戸をあけて内部を見せた。「風呂に入ったり、髪を洗った・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・ 黒田君の買って来た樅の木は小ぢんまり植木鉢におさまり、しかも二寸ぐらいの五色のローソクを儀式どおり緑の枝々につけている。 灯がついたら銀のピラピラが樅の枝で氷華のように輝いてキレイだ。 夜がふけて見たら、サモワールの湯気で、凍・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
出典:青空文庫