・・・という小品の中に、港内に碇泊している船の帆柱に青い火が灯っているという意味のことを書いてあるのに対して、船舶の燈火に関する取締規則を詳しく調べた結果、本文のごとき場合は有り得ないという結論に達したから訂正したらいいだろうと云ってよこした人が・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・ゾラは『田園』と題する興味ある小品によって、近頃の巴里人が都会の直ぐ外なるセエヌ河畔の風景を愛するようになったその来歴を委しく語って、偶然にも自分をして巴里人と江戸の人との風流を比較せしめた。 ゾラの所論によると昔の巴里人は郊外の風景に・・・ 永井荷風 「夏の町」
一 モーパサンの書いた「二十五日間」と題する小品には、ある温泉場の宿屋へ落ちついて、着物や白シャツを衣装棚へしまおうとする時に、そのひきだしをあけてみたら、中から巻いた紙が出たので、何気なく引き延ばして読むと「私の二十五日」とい・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・、或る小品の美が今も心に生きています。 フランス現代美術展覧会に陳列されたロダンの彫刻数点、クローデル嬢の作品も、深い感激を与えたものです。 読んだものの中では、「神曲」、ゲーテの作品数種。 印象の種類から云えば、まるで其等のも・・・ 宮本百合子 「外来の音楽家に感謝したい」
・・・書き方が小品との区別を明かにしていないようなところがありますが、ルポルタージュとしては、もっと具体的にその小学校のある地域の特殊性などをはっきり書く方がいいと思います。 所謂文学的な言葉のあやにかかずらう必要もないと思います。 母へ・・・ 宮本百合子 「新女性のルポルタージュより」
・・・ 特徴ある随筆の筆者斎藤茂吉氏は覊旅蕨という小品を与えた。 同行二人谷譲次氏は新世界巡礼の途についた。そして Mem タニが女性の適応性によって、キャパンの流行巴里料理を通じ熱心に one of them たろうとする時 Mr. タ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ 自分は、正月の太陽の為に南路を書き、日曜や今日のようにAが家に居、机を並べてやって居る時には、此を書いたり、小品を書いたりして居る。 仕事を、飽くまでコンスタントにやること。然し、無理をせず、真の緊張と感興の持続する限度と、雰囲気・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・大家連が筆頭で小品風なものを、小品風な筆致で描いて、その範囲での貫録を示すかのように新進の画家たちとは別にまとめて一室に飾られてある。 私は絵として心を打たれるものを見出すことは出来なかったが、その絵の大小によって云わず語らずのうちに示・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・だからステッキに就いて一つの小品を書いたとしても、私はそのような内容でそれを書くことは、私の気持ちの上から出来なくなって来ているのである。 この感情の再組織のことはプロレタリヤ文学上では大きな問題であると思う。これから先もプロレタリヤ文・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・だから文学サークルが目下小説を書いている人たちだけの中心勢力で指導されていて他のより多くの人はいわゆる文学愛好家の水準にとどまって、心まかせの投書雑誌向きな詩や小品ばかりを書いているという状態は、できるだけ早く発展させられなければならないで・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
出典:青空文庫