・・・ 小学校建築には政党政治の宿弊に根を引いた不正な施工がつきまとっているというゴシップもあって、小学生を殺したものは○○議員だと皮肉をいうものさえある。あるいは吹き抜き廊下のせいだというはなはだ手取り早で少し疑わしい学説もある。あるいはま・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・そういう時にたとえばラジオによって全国に火事注意の警報を発し、各村役場がそれを受け取った上でそれを山林地帯の住民に伝え、青年団や小学生の力をかりて一般の警戒を促すような方法でもとれば、それだけでもおそらく森林火災の損害を半減するくらいのこと・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・ わたくしが小学生のころには草花といえばまず桜草くらいに止って、殆どその他のものを知らなかった。荒川堤の南岸浮間ヶ原には野生の桜草が多くあったのを聞きつたえて、草鞋ばきで採集に出かけた。この浮間ヶ原も今は工場の多い板橋区内の陋巷となり、・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・聞くところによれば現代の小学生は小遣銭を運動費となして、級長選挙の事に狂奔することを善事となしているというではないか。 市中行賈の中、恰も雁の去る時燕の来るが如く、節序に従って去来するものは、今の世に在っても往々にして人の詩興を動かす。・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・その上僕の風変りな性格が、小学生時代から仲間の子供とちがって居たので、学校では一人だけ除け物にされ、いつも周囲から冷たい敵意で憎まれて居た。学校時代のことを考えると、今でも寒々とした悪感が走るほどである。その頃の生徒や教師に対して、一人一人・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・なかなか狐の小学生には、しっかりした所がありますよ。五時間目だって、一人も厭きてるものがないんです。参観のもようを、詳しくお話しましょうか。きっとあなたにも、大へん参考になります。 浜茄は見附からず、小さな火山弾を一つ採って、私は草に座・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・いつも星を見ているあの生意気な小学生も雨ですっかりへこたれてうちの中で絵なんか書いているんだ。お前たちが笛なんか吹かなくたって星はみんなくるくるまわるさ。どうだ。一寸旅へ出よう。あしたの晩方までにはここに連れて来てやるぜ。」 チュンセ童・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・ 考えて見ると、あの時分の小学生は、今の子供達とは随分異っていたものだと思う。こんなに靴を穿いている者はいなかった。皆、草履袋を下げ、それを振廻したり、喧嘩の道具に使ったりしながら、男の子でも下駄か、皮草履を穿いて通学した。いつもいつも・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・ドイツの小学生に先生が質問した。日本人と米国人とはどこがちがいますか? 子供の答えに曰く。年よりで、ズボンに筋がなくて、眼鏡をかけて、写真機をもっているのが日本人です。アメリカやドイツへ行くと、レンズがよいのが魅力で税のかからぬところで誰で・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・聰明で教養も深い両親の御秘蔵っ子としてのマーニャは、いつも家庭のたっぷりした情愛につつまれて幼い時代を過したけれども、小学生になる頃からは、もうポーランドという国が蒙っていた昔の露帝の圧迫のわけまえをになって、教室で意地わるい視学の問いに、・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
出典:青空文庫