・・・中につきて数句を挙ぐれば草霞み水に声なき日暮かな燕啼いて夜蛇を打つ小家かな梨の花月に書読む女あり雨後の月誰そや夜ぶりの脛白き鮓をおす我れ酒かもす隣あり五月雨や水に銭蹈む渡し舟草いきれ人死をると札の立つ秋風・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ CCの車にて見物 美くしき小家、 二十六日 L. A. を立ち、サンフランシスコ着 二十七日 Thanksgiving Day. 夜立つ 二十九日 シアトル。部屋で dinner十二月 一日 船の手・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・ 陰気な、表に向った窓もない二階建の小家の中からは、カンカン、カンカンと、何か金属細工をして居る小刻みな響が伝って来る。一方に、堂々たる石塀を繞し、一寸見てはその中の何処に建物が在るか判らない程宏大な家が、その質屋だと云うのである。・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・お前の勉強する場所がいるなら拵えてやるよと云ってもくれたが、出入りにそこが不便なばかりでなく、仲よい父娘の一方は妻に先立たれ、一方は良人と引離されている、その一対がそんな海辺の小家で睦じく生活する日々の美しさなどというものは、或る状態の気分・・・ 宮本百合子 「わが父」
・・・二人の子供は創の痛みと心の恐れとに気を失いそうになるのを、ようよう堪え忍んで、どこをどう歩いたともなく、三の木戸の小家に帰る。臥所の上に倒れた二人は、しばらく死骸のように動かずにいたが、たちまち厨子王が「姉えさん、早くお地蔵様を」と叫んだ。・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫