・・・予が見送ると目を見合せ、「小憎らしいねえ。」 と小戻りして、顔を斜にすかしけるが、「どれ、あのくらいな御新造様を迷わしたは、どんな顔だ、よく見よう。」 といいかけて莞爾としつ。つと行く、むかいに跫音して、一行四人の人影見ゆ。・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・桀紂と云えば古来から悪人として通り者だが、二十世紀はこの桀紂で充満しているんだぜ、しかも文明の皮を厚く被ってるから小憎らしい」「皮ばかりで中味のない方がいいくらいなものかな。やっぱり、金があり過ぎて、退屈だと、そんな真似がしたくなるんだ・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・ あんまりパキパキした子ではないけれ共小憎らしいと云う様なところの一寸もない子であった。 兄達が毬投げなんかすると、木のかげや遠くの方にそれて行ったのを拾う役目を云いつかって音なしく満足してやって居るので、しおらしい感じを起させた。・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫