・・・その時、小枝が揺れて、卯の花が、しろじろと、細く白い手のように、銑吉の膝に縋った。昭和八年一月 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 何も、肯分けるのでもあるまいが、言の下に、萩の小枝を、花の中へすらすら、葉の上はさらさら……あの撓々とした細い枝へ、塀の上、椿の樹からトンと下りると、下りたなりにすっと辷って、ちょっと末を余して垂下る。すぐに、くるりと腹を見せて、葉裏・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・かれは意にもなく手近の小枝を折り、真紅の葉一つを摘みて流れに落とせば、早瀬これを浮かべて流れゆくをかれは静かにながめて次の橋の陰に隠るるを待つらんごとし。 この時青年の目に入りしはかれが立てる橋に程近き楓の木陰にうずくまりて物洗いいたる・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・小屋の中の片側には数日分の薪材に付近の灌木林から伐り集めた小枝大枝が小ぎれいに切りそろえ積みそろえられていかにも落ち着いた家庭的な気持ちを感じさせる。 測量部の測夫たちは多年こうした仕事に慣れ切っていて、一方では強力人夫の荒仕事もすると・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・ この盛んな勢いで生長している植物の葉の茂りの中に、枯れかかったような薔薇の小枝から煤けた色をした妙なものが一つぶら下がっている。それは蜂の巣である。 私が始めてこの蜂の巣を見付けたのは、五月の末頃、垣の白薔薇が散ってしまって、朝顔・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・土蔵の横にある大きな柿の木の大枝小枝がまっさおな南国の空いっぱいに広がっている。すぐ裏の冬田一面には黄金色の日光がみなぎりわたっている。そうかと思うと、村はずれのうすら寒い竹やぶの曲がり角を鳥刺し竿をもった子供が二三人そろそろ歩いて行く。こ・・・ 寺田寅彦 「病院の夜明けの物音」
・・・いつも午ごろになるとはい出して、小枝の先の青葉をたぐり寄せては食っていた。からだのわりに旺盛な彼らの食欲は、多数の小枝を坊主にしてしまうまでは満足されなかった。紅葉が美しくなるころには、もう活動はしなかったようである。とにかく私は日々に変わ・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
┌細君、小枝 │七歳の伸一┌富井行雄┤四つの健吉│ │百姓 与田初五郎│ └ 酒井「五兵衛さん」│石田重吉┐直次 つや子└ ひろ子└進三〔欄外に〕・・・ 宮本百合子 「「播州平野」創作メモ」
重吉 ひろ子 富井 行雄 伸一 健吉 小枝 永田弁護士 村上さん 清瀬さん┌───────┐│ 山代弁護士 ││ 上野駅 │ 吉・・・ 宮本百合子 「「風知草」創作メモ」
出典:青空文庫