・・・「小野小町」は、上演の為に改作したのだそうだから、無理もないが、意味を自覚しない悪くどさで、失敗と感じた。 宗之助の小町に、些も小野小町らしい大らかさも、才気もなく、始めから終りまで、妙にせっぱ詰った一筋声で我身を呪ったり、深草少将・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・生れは雪深い越後、雪国に美人が多いと云うためしにもれず若い時は何小町と云われたほどその美しさがかもしたいろいろの悲しいことや美しい話は今はきりさげの被衣姿の人の口からひとごとのようにはなされる事もたまにはある。娘も京の川水に産湯をつかっただ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・それに器量よしという評判の子で、若者どもの間では「岡の小町」と呼んでいるそうである。どうも仲平とは不吊合いなように思われる。姉娘の豊なら、もう二十で、遅く取るよめとしては、年齢の懸隔もはなはだしいというほどではない。豊の器量は十人並みである・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫